EPISODE15:「馴染」

 午後の授業後の放課後。友人マリカから助言を受けたカイは早速動く事にした。善は急げである。


(視線を感じるな……)


 今カイがいるのはほぼ立ち寄らない上級生のエリア。元々彼は帰宅部な上ボッチなのでこの学園での交流はないに等しい。

 更に昨日の模擬戦の噂のせいかやはり目立っている気がする。でもまあ――


(攻撃仕掛けてくる人はいなさそうだし)


 それだけでもマシである。そう思いながら歩いていると目的地に到着。それは二年生のとあるクラス。


「失礼します」


 そう言いながら入室すると一気に視線が集まるのを感じる。そしてお目当ての人物がいるのを確認。その人の元へ近づく。そして――


「ちょっと宜しいでしょうか?先輩」

「……何でしょう?」


 声を掛けた。

 ボブカットにした黒髪に黒目の少女。表情が鉄面皮になっている以外は普通の人である。そんな少女はカイに一瞬だけ目を見開くもすぐに元の鉄面皮に戻る。


「少しだけ話せますか?」

「……ちょっとお待ちを」


 カイの言葉に少女は端末を操作。少しして立ち上がる。


「では行きましょう」

「……どこへ?」

「ここで話す事ではありませんので。場所を変えます」


 そう言うとカイの手を取り引っ張っていった。その手に武器を使う人の特有の硬さを感じた少女――ハヤカワ=サクヤは内心で溜息を吐く。


(キー君……)


 カイが一部の人にしか許さない愛称を使い心の中で呼びかけた。




 ☆☆☆




 シンゲツ=カイには一歳年上の幼馴染がいた。それがハヤカワ=サクヤ。この世界の友人と言える存在だった。偶然公園で一緒になり仲良く一緒に遊ぶ仲にあった。


『ねえキー君』

『何ださっちゃん』


 お互い愛称を呼び呼ばれる仲。


『貴方は将来何になりたいんですか?』

『探索士』

『……即答ですね』

『うん。俺はそうならなくちゃいけないから』


 この時にサクヤはカイの歪みに薄々気づいていた。だがそれでも――


『そうですか。私は応援します』

『ありがとう』


 特に法に触れる事ではないので応援していた。……のだが――


『え……何これ……』


 ある時サクヤは事故に遭った。そして重傷を負い――チカラを手に入れた。その後退院してカイを。そして絶句した。

 彼の魂魄――魔導や異能力の源――はスカスカだった。穴だらけどころか、重要な部分が幾つも削ぎ取られたかのようにない。……今ここで生きているのが奇跡状態であった。彼に問い詰めると――


『まあ……さっちゃんになら言ってもいいか』


 カイは自分の過去を話した。どうして魂魄が欠けているのか、なぜ探索士を目指すのか、そして二つの人生の目的。

 それを聞いたサクヤは――


『いますぐやめなさい!』


 止める事にした。どう見ても――誰が聞いても幸せになる未来が見えない。それにカイは――


『ふざけるなよ?俺は進まなければならない』

『その果てには何もありませんよ?』

『知ったような口をきくな。幸せに生きて来た甘ちゃんが』

『貴方の為を思って言っているのです!』

『俺の人生だ。俺が責任を持つ。野垂れ死んでも本望だ』

『それで悲しむ人もいるのですよ!』


 お互いの意見は平行線を辿った。そして――手足が出る大喧嘩。結果は……カイの敗北。順当と言えば順当な結果である。片や才能の欠片もない少年、片や才能に溢れ更なるチカラを手に入れた少女。

 そうして二人は疎遠になった。とは言え年賀状位は送っていたのでお互い元気でいる事は分かっていた。


 そしてサクヤは鎮星学園に入学し優秀な成績を取り、交流戦(五校で行われる魔導を使った競技大会)の新人戦で優秀な結果を収めた。そしてカイが入学してきた事を知った時――


(ああ、まだ諦めてないのですね)


 悲しく思った。更にカイが退学の危機に陥った時は――


(貴方もこれで思い知るでしょう。進み続けても何もないのだと)


 そう思った。だが――


『っ!?』


 圧倒的な勝利を収めるカイを見て驚いた。一体何があったのだろう。それに――


『魂魄の欠損が補填されてる!?』


 カイの魂魄が補填されていた。普通にやったのでは有り得ない――と言うより治せる人は……恐らくはいない。


(何があったのですか……キー君)


 問い詰めようと思っていた。とは言え疎遠になってから早十年近く。一体どうやって接触しようかと迷っていたので彼から訪ねて来たのは僥倖であった。

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