おせっかいな人達のお陰で…
さてさてあれから男性陣も加わり、『2人を見守る会』が『2人を恋人に昇進させる会』になったのは、言うまでもない。女性陣達は、2人の仲を進展させるように願いながらも、2人の恋人になるまでの初々しい仕草や遣り取りを見て、自らもワクワクしていたのだったが、男性陣たちは逆に余計な手順は全て省いて、2人をサッサとくっつけようとしたのだ、物理的に。
徳樹も流石に少し前から、彼らが何をしたいのか…気付いていた。彼の立場から言えば余計なお世話だろうが、唯々…苦笑をしていた。実は彼自身も、悠里にどう接したらいいのか分からず、迷っていたのである。
悠里とは勿論、恋人になりたいと思う。彼にとっては初恋とか関係なく、今回の恋が真実の恋だと思うことにした。前回の恋は自覚すると同時に失恋だったので、悔いは残っていなくとも、前回と今回の好きな相手を、比べる気はない。彼女には彼女の良いところがあり、また悠里には悠里の良いところがあると…。
前回の恋も今回の恋も、その恋の相手が自分の予測不可能な人物である、という部分は似ていることから、ある意味前途多難な相手ばかりを好きになるのは、彼も本気の恋では予測不可能なのだろう。前回のお相手ほどではなくとも、今回の恋のお相手・悠里も、中々に癖のある人物だったりする。
お陰でどう攻略したらいいのか分からなくて、普通にデートとかに誘えば、恋愛に関する部分は完全にスルーされてしまい、それ相応に手強い相手でもある。それでも今回の恋に関しては、徳樹も諦める気は全くない。悠里には婚約者など決まった相手もおらず、彼女自身に好きな相手がいないならば、諦める必要などない…と。
瑠々華さん達も、応援してくれている。そして斎野宮先輩達も、俺の味方をしてくれている。自分もどうすればいいとか、頭で考えている場合ではないよな。ここまで来たら…押しに押し捲り、積極的に行動するしかないだろう。
「本気で好きな女性が出来た。君達とは、もう一緒に居られない。」
そう決意してからの徳樹は、とても打たれ強くなっていく。迷う素振りを一切見せることもなくなり、自分の意思を貫き通していた。これまで自分を取り囲んでいた女性達に頭を下げ、全身全霊で謝り不特定多数の異性とお別れしようとした。大抵の女性達はすんなりと諦めてくれるのだが、中には彼に怒りをぶつける自己中心の女性達も居たけれど、それでも彼は…自分が悪かったと頭を下げ続け、漸く女性達全員と完全に手を切ったのだ。
そうして彼の傍には、異性は誰も居なくなる。こういう事情を一切知らずにいた悠里は、
その後からは、徳樹からの悠里への猛攻撃が開始された。大学内で彼女に会えばさり気無く声を掛け、「一緒に食堂に行こう。」と誘い、彼女と別行動している時には、「今、何処に居るの?」などと、緊急でも何でもない時もメールを送信し、そして大学がオフの日にはデートに誘い。
これらを繰り返すうちに、悠里の徳樹への態度も…少しずつ変化して行き、徳樹自身も手応えを感じるようになる。そして漸く半年以上を過ごした後、悠里に…愛の告白をするという覚悟を望み……。
「悠里さん。俺と…付き合ってくれないか?…勿論、恋人として…。出来れば、俺の婚約者に…なってほしい。」
瑠々華さんもハッキリ告白しなければ、全く気付かないタイプだったが、悠里さんもそういう点では、よく似ているな…。だから俺も、ここはハッキリ言う時だと思い、実行することにした。例え…その結果が、どういう結末になろうとも……。
「……はい、光条さま……。わたくしも実は前世から、本当は好きなタイプでしたわ、貴方のこと…。わたくしも貴方のことを途中までは、乙女ゲームのキャラだとしか…見ておりませんでした。最近になってから漸く、その事実に気付きましたのよ。今のわたくしは、貴方と乙女ゲームの徳樹さんとは、別の人物だと理解しておりますわ。今はもっと、貴方のことが大好きです……。」
彼女の声は、特に最後の方は消えそうに小さいけれど、俺にはハッキリ聞こえていたよ。漸く自分の想いが伝わったとそう感激してから、徳樹は悠里をギュッと抱き締めると、耳元でこう呟いた。
「俺を好きになってくれて、ありがとう。俺は君の存在にずっと気付けなくて、最近までは…後悔していた。だけど今は…君とこうして恋人になる為、いや…その為の準備期間だったのだと、そう思うことにした…。君と出会えた今の俺は、幸せだな。ありがとう、ずっと俺の傍にいてくれて…。そして、俺を見つけてくれて。俺も大好きだよ、悠里……。」
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「此処は、異世界の世界なの?」
わたくしがそう気付いた時には既に、この世界の諸々な事実に違和感を抱いておりました。何となく…唯の異世界では、ないような気がして…。前世で流行っていたパラレルワールドとか異世界に、自分が転生したのではないとかと、そういう疑問は持っておりましたけれど、まさかの乙女ゲー世界だったとは……。
わたくしがそう思い出した時、小学生になったばかりの頃でしたわ。現世のわたくしの家は其れなりにお金持ちの家柄でして、前世では公立の学校に通っておりましたのに、此方では私学の有名校に通うことになり。
「…悠里。明日からお前は、堀倉学園付属小学校に通うんだよ。人見知りのお前にも、沢山のお友達が出来れば良いのだが…。」
現世の両親はわたくしには勿体ない程、とても優しい子煩悩な人達です。人見知りのわたくしのことを、一番に考えてくださいますのよ。しかしわたくしは、小学校名を聞いた瞬間から、どうしようもないほどの違和感に襲われ。
どういうことかと不思議に思いつつ、その時にはまだ思い出せず、学校に通い出して1年が経つ頃には、そういう思いも忘れておりました。クラスの女子達が騒ぐ先輩の苗字を時々聞く度に、何処かで聞いたような気になるものの、何せこの国の有名な家柄でしたし、知っているのは当然だとも思っておりました。
そして、あの運命の日。わたくし達は2年生は、入学したばかりの1年生女子のお世話をすることとなり、其処で運命の出会いを果たしましたのよ。そこには、見覚えのある少女達がおられましたわ。お互いに「麻衣沙ちゃん」「瑠々華さん」と呼び合うお姿をお見掛けし、わたくしはこうして前世の記憶を思い出したのでして。そうしてこの世界が、乙女ゲームの舞台であることを…知ったのです。
思い出した当時のわたくしは、もう…狂喜乱舞の状態でしたわ。幸いわたくしはモブキャラでしたし、思い切り眺められますわね…と。眺めるのは勿論、彼ら攻略対象と悪役令嬢達をですわ。…ふふふふっ。…モブキャラって、最高っ!
前世からわたくしは極度の人見知りでしたし、前世でも親しい友人は少数で、中でも乙女ゲーは友人達との共通の話題で、共有の趣味でしたわ。お陰でこのゲーム自体にも、とても思い入れがありましたので、ゲームキャラ達を身近で眺められる環境が、強い思い入れのある現実世界で体験可能などとは、超ラッキーでしたわ。
何年も彼らを眺める環境で、彼らキャラへの思い入れもより強くなりました。此処はゲーム設定ではなく現実なのですし、彼女達が攻略対象から罵られる姿など、見たくありません…。今の彼らは仲が良い風にお見受けしたので、1人のヒロインによってバラバラとなるのは、余計にわたくしにも耐えられなくて。それほどにわたくしは、彼らに感情移入しておりました…。
月日は流れ、ゲームの登場人物全員が通うこととなる大学に、悪役令嬢とヒロインが入学される予定でしたが、何故かヒロインの姿だけが見当たらなくて。どういうことなのかしら?…そう不思議に思う矢先、ヒロインが大学受験に失敗し、浪人生として大学に不法侵入したと、其処で…ヒロインも転生者なのだと、初めて知ったのです。
此処は乙女ゲーに似た世界というだけで、正真正銘の現実世界です。わたくしもそう知っていたにも拘らず、本心では乙女ゲーだと燥いでいたのですね…。彼らの現実の姿を見ようともせず…。わたくしはモブキャラなので関わる必要がないと、勝手に線引きをして…。
それまでとは異なり、大学では光条さまに近づいたのに、わたくしはただ見ていることしか、出来ませんでしたわ。瑠々華さんが光条さまのお心を捉えられても、傍で見ていただけで…。光条さまも皆様も…それぞれが悩まれ、足掻いておられるという状況にも、わたくしは皆様に近づくことが出来ませんでした…。
応援とは本当に都合の良い言葉で、結局わたくしは彼らに関わるのを、恐れていたのかもしれません…。前世では唯一の私の推し・光条さまに、せめてモブキャラとして見守ることに、徹しようとしましたのよ。
今ならば、それも…分かります。攻略対象と恋愛するのが、怖かったのですよね、わたくしは…。現実の光条さまに本気になり、モブキャラだと…現実を指摘され、また否定されることが、恐ろしかったのでしょうね…。
其れなのに…まさか、彼の方からわたくしを追い掛けてくださるとは、当初は何とも都合の良い夢だと思いつつも、何時の間にかわたくしも、彼を本心から恋愛対象に見ておりました…。あのような素敵な言葉を贈られましたら、モブのわたくしなど…イチコロでしたのよ。
わたくしを…好きになってくださり、ありがとうございます。そして、わたくしを見つけてくださり、感謝致します。わたくしもとても幸せですわ、徳樹さん……
そして、瑠々華さん達悪役令嬢とも仲良くなれて、もうわたくし…本望ですっ!
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前回と同じく、2年目の夏休み中の出来事です。
前半が徳樹の立場での第三者視点、後半が悠里視点となります。
番外編集で初登場し、その上に自分視点有りと…特別扱いな悠里。後半だけではありますが、悠里の視点となりました。
これで隠しキャラ&モブキャラの2人も、漸く公認カップルとなりましたね。2人にも色々と葛藤があるようですが、無事に纏まりました。
※読んでいただきまして、ありがとうございました。
次回は、また何時になるか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。
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