攻略対象側の男子会では…
本来の乙女ゲームが終わる筈の学年が終了し、新学年へと進級して5月に入っていた。そして只今、5月の連休中である。
乙女ゲームで悪役令嬢キャラだった女性陣4人は、5月の連休中に女子会をすることとなり、彼女達の恋人の男性達も暇を持て余し、何となく男性陣だけで集まり、お酒を酌み交わしていた。未だ20歳の誕生日を迎えていない
女子会メンバーが4人なのに対し、集まった男性メンバーは5人だ。女性より男性メンバーが1人多い理由は、乙女ゲームでは隠しキャラの
男子会の発起人は斎野宮樹で、飲み会と称して男性メンバーを集めた場所は、彼の家が贔屓にしている料亭だ。彼らを集めた理由は、乙女ゲームの攻略対象キャラとして、一度はっきりさせたい事情があるからである。集まった当初は
「今日集まってもらったのは、他でもなく乙女ゲームの動向だ。以前から女性達が居ない場で、ハッキリさせたいと思っていたことがある。乙女ゲームには続編が存在する場合が、あるらしい。俺達に関わるゲームは、もう完全に終了したと考えて、良いのだろうか?」
樹の質問に対し、この場の男性全員が
「美和から聞いた話では、乙女ゲーの続きはないらしい。但し、オマケ的要素のミニゲーが販売されたのを、最近思い出したと言っていたな。何でも、孤高の存在である麻衣沙さんが、前世では特別人気があったとかで、彼女をヒロインとする短編ゲームが存在したらしい。」
「…はっ?…麻衣沙が……ヒロイン……!?」
麻衣沙の婚約者・
「麻衣沙嬢がヒロインとして登場する短編ゲームは、どういう内容のものなのかを、出来るだけ詳しく教えてくれ。」
「…ああ、分かった。」
動揺している岬に代わり、直ぐ頭の中を切り替えた樹が聖武に説明を求め、それに応じた聖武はコクンと頷いた後、美和乃から聞いた話をなるべく忠実に、語り始めたのである。
乙女ゲーム本編の元ヒロインが、全攻略対象の攻略に失敗し、孤島の監獄所に送られたところから、短編ゲームの物語が始まる。新ヒロインはどう見ても麻衣沙なのに、名前が異なる別人として登場する。また元ヒロインもどう見てもそうなのに、名前が異なる別人として登場し、悪役令嬢側のキャラへと逆転していた。本編での攻略に失敗したとされる彼女は、性格が元々悪かった偽ヒロインだったとして、攻略対象を騙したことで監獄所に入れられる。
そこで出逢ったのが、今回の唯一の攻略対象であるイケメン男性だ。監獄所へは物資を届ける、配達人として登場する彼に優しく声を掛けられ、一目ぼれした元ヒロイン。しかし、彼の本当の正体は大会社の御曹司であり、彼の恋人を助ける為に身分を隠して、監獄所に出入りしていた。
その彼の恋人こそが、麻衣沙そっくりの新ヒロインであり、彼女は其れなりの家柄のお嬢様で、彼らのライバルの令息や令嬢に嵌められ、この監獄所に送られて…。彼女を助ける為に、イケメン男性は潜入する。元ヒロインはそういう理由があると気付かず、新ヒロインにヤキモチを焼き、2人の逢瀬の邪魔をするのだ。
最終的には、新ヒロインを嵌めた令息令嬢を破滅させ、新ヒロインの無罪を勝ち取り、イケメン男性は新ヒロインを救い出す。その際、邪魔ばかりして新ヒロインを虐めた元ヒロインは、彼の部下により亡き者とされ、この事件は闇に葬られて…。
…というのが、中々のダークっぷりな設定の短編ゲームの内容だ。然もその監獄所には実際に、元ヒロインが送られていたのである。元ヒロインの性格が悪く、攻略対象達を騙そうとした…という部分も似ており、この場の誰もが現実味を帯び過ぎて、怖いぐらいだと感じていた。
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「岬が気にする必要は、ない。飽く迄も、乙女ゲーム上での設定だ。今迄も特には強制力はないし、今後も…有り得ないだろう。」
「そうだよ、岬先輩。これは、美和乃が思い出した内容だ。今回はどんなに同様の設定と言えども、キャラの名前も違うし、巻き込まれる可能性は低いと思う。」
未だに無言のままの岬に、樹が気を遣うように声を掛け、この話を語った聖武も、岬を気遣う素振りを見せる。しかし岬は、金槌で頭を叩かれたようなショックを受けるほどに驚いたものの、今はただ深く思案しているだけだった。彼女の幼馴染は自分達3人だけで、他には居ない筈である。自分は麻衣沙を選び、彼女もまた俺を選んだのだから、大丈夫な筈だと信じている…と。
容姿が同じでも名前が違うし、設定が本編と逆転しているという事情もあり、この世界でもし同様の現象が起こるならば、別人がイベントを起こす可能性が高いだろうし、元ヒロインは…巻き込まれるのかもしれないが、それは俺には関心がないことだ…などと、考えていた岬。
「篠里先輩、気にするだけ無駄なことですよ。俺なんか、婚約者どころかまだ…恋人も、居ないですし…。」
「…そうだな。英里から麻衣沙さんの人柄を聞いているが、俺も今更そうならないと思う。」
徳樹は「恋人が居るだけ、マシですよ。」と言いたげに、少々
「…ん?……ああ、いや、別に落ち込んでいた訳ではなく、短編ゲームの設定との違いを考えていた。結果として、元ヒロインが巻き込まれるかもしれない、という結論が出ただけだな。」
岬は漸く、他の男性陣が自分を心配してくれていると、気付く。逆に岬が考え込んでいるだけだと知った、他の4人も内心ではホッとして。このメンバーの殆どが、まだ短い付き合いではあったが、乙女ゲーの断罪シーンを共に乗り切った連帯感もあり、強い友情が生まれているようだ。勿論互いの恋人達が仲良くしているのも、一理あったりする。
「俺は基本、麻衣沙を信じている。彼女はああ見えて、芯の通った強い人間に見えるが、感情が上手く出せないだけで、割と感情豊かな女性だ。だからこの件は、今は知らせたくない。あの時、俺は…何が遭っても守る、と決めたしな。」
「…俺ももっと早く、ルルと向き合えば良かったよ…。ルルが俺を避けているからと、嫌われるのを恐れ理由を聞かずにいたのは、間違いだった。だから、今回のように確認したのだが、確認して良かった…と思っているよ。」
「俺はまだ…決まった相手が居ないけど、それでも参加して良かったな。知らないところでゲームに参加させられるのは、やっぱり嫌だからね…。」
「俺はあの時まで知らなかったから、英里が悩んでいたと思うと、もっと早くに知りたかったと後悔した。過去はやり直せない以上、俺もこれからは知るという努力を、していくつもりだ。」
「俺は
岬が彼女に対しての心情を語れば、残りの4人も次々と、恋人に対しての心情を語り出す。情報が得られて良かった…というのが、満場一致の意見だ。岬以外はハッキリと口には出さないが、誰もがこの一件を自分の恋人には知らせたくない、と考えている様子である。
このオマケ要素のゲームについて思い出したのは、実は美和乃だけではなかった。英里菜もつい最近になってから、思い出していた。美和乃はつい口を滑らせてしまい、聖武にはすっかりバレてしまっていたが、英里菜は相良にさえもこの内容は話さず、自分の心の中にしまい込んでいた。相良が先程語った事柄は、麻衣沙自身の人柄についての話のみで、英里菜がこの一件の話を漏らした訳ではなかった。
「麻衣沙は恋愛ごとに慣れていないし、とても愛らしい反応なんだ。俺の婚約者が麻衣沙で、良かったな…。俺は世界一、幸せ者だ。」
「それを言うならば、俺はもっと幸せ者だよ。俺のルルはちょっと先走るところもあって、こんな俺にも本心から優しいと言ってくれる
「しっかり者の英里は、俺のことを一番理解してくれる。彼女でなければ、俺は恋人になりたいとは思わないだろう。」
「俺も美和と居ると、気を張らずに俺らしく居られるんだよね。但し、目が離せなさ過ぎて、ちょっと困るけどさ…。」
「……斎野宮先輩。それ…性格詐欺ですよ。瑠々華さんに、いい加減…教えてあげたら、どうですか?…それよりも、皆で
結局は恋人が居る樹達4人に惚気られ、「来るんじゃなかった…」と気分が落ち込みながらも、徳樹は4人を羨ましく思っていた。その後暫くしてから彼は、漸く運命の女性を見つけることとなる。そうなる日も、そう遠くはないことだろう。
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もう既に、連休が終わっていることと思いますが、今回も連休中のお話です。
どうしても男子会のお話を書きたくて、お話を作りました。既に投稿した女子会の開催日と、同一日のお話となっています。今回は、攻略対象男性側のお話で、珍しく第三者視点となりました。
5月の長期連休中、悪役令嬢キャラ4人が女子会をすることとなり、男性側も飲み会という男子会をすることになって…。
本編(後日譚)でも出て来たおまけ的なゲームの設定が、メインの話です。あの時は、ルルしか思い出せませんでしたが、最近になって美和乃と英里菜が思い出しました。
実はこのゲームの話は、本編終了後の番外編・ヒロインバージョンにも出て来まして、そこでの話が本編での現実の結末です。此処では現在時点では、本編後から後日譚の間というところでしょうか。
最終的には惚気話になり、徳樹くんが可哀そうな状態に…。彼ももう少し我慢すれば、彼女が出来ますが。機会があったら、此方の方にて、彼と恋人の出会いのお話も書きたいですね。
※読んでいただき、ありがとうございました。次回は、またいつか…分かりませんが、またよろしくお願い致します。
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