第7話 丞之介
初めて飲んだエスプレッソは苦かった。
「苦い!」
「だよな~俺は美味しくマキアートを頂きます」
裕貴くんは笑顔でマキアートを飲んでいた。あまりに苦いのでマカロンに逃げてみた。美味しいと告げたら裕貴くんは「だろ?」と嬉しそうだった。表情が豊かで子どもみたい。
「で、失恋した話って聞いていいの?」
急に真顔で目線を向けられる。
「無理には聞かないよ」
「会社の先輩なの……」
私は先輩を好きになった日々と先輩が結婚してショックだった事を裕貴くんに話した。茶化されるかと思ったけれども裕貴くんはずっと黙って聞いてくれた。
話し終えたら「まだ先輩の事好きなの?」と聞かれた。解らないと答えた。
「つーかお前、今日指名決めんなよ? 弱ってる女につけこんだみてーで俺が納得いかねーから」
「……私が裕貴くんを選ぶ前提なの?」
「あれ……違った?」
裕貴くんの顔がまた赤くなった。本日二度目の赤面。私は大笑いした。
「うわー恥ずかしい。もうなんだよー責任とって俺を慰めてくれ」
「よしよし」
「子ども扱いするじゃねーか」
本気ですねる裕貴くんが微笑ましい。このあとは時間まで私と裕貴くんの好きな音楽の話をした。
「今日は来てくれてありがとう」
「私も、話してすっきりした」
「……じゃーね」
また軽口を叩くと思っていたら笑顔で返された。
仕事帰りたまたまホ茶クラブの近くを通ったら裕貴くんが出てきた。スタイル抜群の女の子を見送っていた。女の子は裕貴くんに抱きついていた。え……ハグありなの?
なんだかもやもやする。そりゃ裕貴くんはホストだし仕事なんだろうけれど……いや仕事だし。でも何でこんなに気になるんだろう。
てか私、裕貴くんが気になっているの? すっきりしないので今週もホ茶クラブに行く事にした。
もやもやしたまま四人目のホストが来た。
「
低い声、そして美形中の美形。多分この店一番の美形だ。絵画かと思うほどに整った顔立ちに黒髪がとても似合っている。こんなに整った顔の人がいるんだと絶句した。
丞之介くんは全然笑わなかったけれどそんなのは裕貴くんで慣れていた。
「ねえ、夢子さんの事聞かせてよ」
丞之介くんに気まずそうに見つめられた。これはドキッとするわ。てか私この店に来て毎回ドキッとしている。
向こうの席では裕貴くんがこの前ハグしていた女と一緒にいた。
「ねえ、裕貴くんの席にいる子、超可愛いけど常連なの?」
「うん」
「スタイル良いしモデルみたい」
「モデルだよ」
えっ、そうなの。お客の個人情報だけど、私はこの店の常連になると思ったので丞之介くんは教えてくれたみたい。
「まぁあの人がモデルなのはこの辺じゃ有名だし」
そうか、あの美貌ならそうだろう。華やかな店内にいてもすぐに見つけた。
「夢子さん、指名誰にするか決めた? 次店に来る時は決めないとだもんね」
そうだ、お試しは四回まで。もし私が次、店に来た時に新人がいたとしてもお試しは出来ない。そういったタイミングも運命に含まれているといった考えらしい。
うーんと悩んでカウンターを見たら神栖くんと目が合いウィンクされて、笑顔で返した。
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