第3話 王道・神栖

「どうしたの? 顔赤いよ、大丈夫?」

 神栖くんは私の前髪を上げて、私のおでこに自分のおでこをくっつけてきた。「熱ある?」なんて定番の台詞を言っているけれどそれどころじゃない。私はもうどうすればいいのか解らない、目が回る。


「おっと、俺の方が熱上がっちゃいそうだ」

 私の動揺をよそに神栖くんは指パッチンをして冷たい飲み物を頼んでいた。スタッフを呼ぶ方法が指パッチン……何から何まで王道だ。


「夢子ちゃんは? あっ紅茶冷めちゃった? 新しいのと替えるよ」

 そんな事までしてくれるんだ。神栖くんは素早く対応をした。


 早速新しい紅茶を持ってきてくれたスタッフがイケメンだった。

「ここの店員、みんなイケメンだね」

 何気なく言ったら神栖くんが少しムッとしているようだった。

「俺といる時になんで他の男をめるの? 嫉妬しっとするよ」

 神栖くんはすねた口調で顔をそむけてしまった。ぎょっとした。そんな事までさらっと言えるなんてもはや尊敬に値する。


 神栖くんは手際てぎわよくティーポットからカップへ紅茶をそそいでいた。綺麗な手をしている。その綺麗な手が先ほどからテキパキと動いている。

「はい、俺お手製のクッキー、おまけ」

 手に見惚みとれていたら急に渡された。人型と星型のアイシングクッキー。

「神栖くんが作ったの? アイシングも?」

「うん、俺と一緒にいてくれた子にあげてるんだ。食べてみて」


 とても綺麗に出来ていたので驚いた。食べるのがもったいないほどに。でも神栖くんは今すぐに食べてほしいみたい。ラッピングされているリボンをほどいてクッキーを取り出す。甘い香りがする。

 人型のクッキーは顔が笑っていて優しい水色の服を着ていた。かじるとサクッと優しい味がした。


「本当に手作り?」

「そうだよ、気に入ってくれた?」

「うん、とっても美味しい」

 神栖くんは両手でガッツポーズをして満面の笑みだった。私まで嬉しくなった。



「お時間です」

 スタッフに声をかけられる。初回は一時間と言われていた。そっか、神栖くんとはお別れの時間か。


「俺がいなくてもいいならこのままゆっくりしていっても構わないよ」

「どういう意味?」

「俺といる時間を延長するなら追加料金が発生するんだ。このあとどうするかは夢子ちゃんが自由に決めていいよ」


 延長か、どうしよう。南の方を見るとあちらもこちらに気づいたようだ。

「どっちでもいいよ、夢子が延長するなら私も延長するし」

 南と二人で話したいので延長しないことにした。


「オーケイ。寂しいけれどまた会いに来てくれる日を望んでいるよ。今日は一緒に過ごしてくれてありがとう」

「私も、美味しいクッキーありがとう」

 神栖くんは「ごゆっくり」と言って席を離れた。入れ違いに南が来た。



「どうだった?」

 早速南とガールズトークを始めた。

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