第24話:迷子
迷宮都市に到着した翌日──馬車、船、また馬車の旅の疲れがどっと出たのか、倦怠感と、あとお尻が痛くてダンジョンに行く気力も出なかった。
それは俺だけでなくルーシェも同じで、平気そうにしていたのはミトだけ。
動けるようになったのは、結局ここに来て三日目だった。
「旅をするって……大変なんだな」
「時間を気にしないなら、徒歩が一番よ。まぁそれだって歩きすぎると足が棒のようになっちゃうけど」
はぁ。車って素晴らしい。電車って素晴らしい。飛行機って素晴らしい。
所持金も少なくなってきたことだし、そろそろ働かないとなぁ。
そんな訳でルーシェとミトの三人で、町の中心にある塔内の冒険者ギルドにやってきたのだけれども。
「凄いね。人だらけだ」
「迷宮都市って言われるだけのことはあるわね」
「いっぱいにゃ。いっぱいにゃ~」
迷子になるといけないから、ミトは肩に乗せておく。
どうせダンジョンに入るなら、ギルドで依頼を受けて入った方が小銭稼ぎも出来るからということなんだけども。
「ギルドに登録って、しておいた方がいいのかな?」
「んー……登録料が必要だもの。今はいいわよ。それに、私が登録してあるから大丈夫よ」
ギルドに登録すればドロップ品を買い取って貰う時に、手数料が掛からない。他にもギルドお抱えの職人に装備の発注を頼めたり、用途不明アイテムの鑑定をして貰えたり。
いろいろあるが、ギルドに登録している仲間がいれば代りに依頼して貰えばいいだけ……とルーシェは話す。
もちろん代理が利かないものもあるけれど。
「なんにしても、世の中お金なんだなぁ」
「そうねぇ……」
「人の世は大変だにゃ~」
世知辛いよなぁ。
ルーシェがカウンターでお使いクエストをいくつか受けて来た。
「薬草採取? え、ダンジョンの中で?」
「陽の当らない場所でだけ生える植物もあるのよ」
「この薬草は、ぽんぽん痛いの治す薬になるにゃ~よ」
ぽんぽん?
あぁ、腹痛か。そりゃあ需要のありそうな薬草だな。
他にも地下十四階にある小川の調査なんてのもあった。
「川?」
「水質調査よ。ダンジョン内にはあちこち水が湧いているんだけど、時々調査をして飲み水として使えるかどうかチェックするの」
飲み水として使えていた水源が、時々毒が混じることがあるそうだ。
原因はだいたいモンスターや冒険者の遺体だったりする。
「スライムが溶かしてくれるんじゃ?」
「水を嫌うスライムもいるの。その場合、水に浸かっている遺体には群がらないみたい」
「火属性のスライムは、水に触れると死んじゃうにゃ~よ」
「根性無しスライムめ」
そんな訳で、目的地は地下十四階の水場だ。
町の中心部にある塔。
一階には地下へと続く螺旋階段と、上へと続く螺旋階段がある。
一階から五階までは冒険者ギルドの施設で、ここ一階は階段の他は看護室になっているらしい。
「治癒魔法が使える人が常駐しているんですって」
「へぇ。じゃあ怪我したらさっさとここに戻って来て、治して貰ってまた出ていけるんだな」
ゾンビアタックし放題じゃん。
そう思ったけれど、世の中金だ。
「治癒魔法かけて貰うのに、お金が必要なのよ? この世界では常識ね」
「世知辛いなぁ」
「にゃあ」
そんな話をしながら、俺たちは螺旋階段を下りていく。
地下一階には転送魔法陣があった。
「ここのダンジョンは十階ごとに転送魔法陣があるそうよ。ひとまず地下十階まで行って、あとは徒歩で下りましょう」
「分かった。薬草は?」
「地下二十階までなら、どこでも生えているそうよ。ただ数が多くないから、量が必要なら歩き回るしかないみたい」
なら地下十階から十四階まで、歩きながら薬草を探すことにした。
転送魔法陣で十階へと移動したけど冒険者の姿はほとんどなく、地下へと続く階段まで数人とすれ違っただけ。
「この辺りはソロプレイヤーが多いんだね」
「ぷれいやー?」
「あ、き、気にしないで。ひとりで冒険している人っていう意味なんだ」
「ふぅん。うん、そうね。浅い階層だとまだパーティーを組んでいない人も多いわ。そういう人たちが死んじゃうと、誰にもその死を伝えられないのよ」
歩きながら薬草を探し、そして何か落ちてないかと辺りをしっかり確認する。
スライムはモンスターであれ人であれ、死体ならなんでも消化してしまう。骨すら残さない。
鉄だとかは残してしまうそうだ。
「中には人の遺品を拾い集めて売るなんて、あくどいことやってる連中もいるんだけどね」
「うえぇ……」
「でも、冒険者ギルドも結局同じことしてるのよ」
「え?」
ど、どういうこと?
人知れず死んだ冒険者の遺品を回収して、弔いとかなんじゃ?
「回収した遺品は、司祭の浄化魔法で怨念とか思念を払った後、溶かして別の装備として再利用するの」
「ええぇぇ!? 遺品の回収って、ギルドが儲けるためだけにやらされるのか?」
「ちゃんと供養はされるわよ。慰霊碑に名前も刻んで貰えるし」
いやぁ、それでもなんかちょっと……。
「ね、タクミ。あなたはもし自分が死んだ時、今持っている物が誰かの役に立つとしたなら……使って欲しい? それとも誰にも触ってほしくない?」
ルーシェにそう尋ねられ、少し考える。
俺のリュック……八千円ぐらいで買った奴かな。たいしていいものじゃないけど使い勝手はいい。
この世界では決して見ることのないものだろう。アイテムボックス的機能もあるしな。
俺が死んだら……
もしダンジョン内で死んだら……
勝手に持っていかれて闇市で売られたりするのは嫌だな。
だけど俺の冥福を祈ってくれて、たとえ共同墓地みたいなので墓に名前を刻んでくれるっていうなら……。
「必要な人がいるなら……俺の死を悼んでくれるなら……使って貰ってもいいかなって、思うかも」
「でしょ? つまりそういうことなのよ。さ、十四階までさくさくっと行きましょう!」
「あぁ、そうだな」
さくっと──だけど世の中そううまくはいかず。
「やっぱり……地図を買っておけばよかったわ」
「すっかり迷子だな」
「ここ、さっきも通ったにゃーよ」
地下十一階で迷子になった。
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