第62話 冬桜会《ゆらら》への誘い
「しっかしさぁ、クロぉ。あの
春の優しい風が髪の間をすり抜けて行く。
昨日まで降り続いていた雨はまるで嘘の様に晴れ上がり、水を十分に含んだ木々や花々が暖かな陽光にキラキラと輝いて見える。
愛車のクロスバイクも絶好調。
住宅街の狭い路地を抜け、今は国道沿いの自転車レーンをソコソコのスピードで快走中だ。
『いやいや、
クロはいつもと同じリュックの中。
昨日はまだ十分に魔力が回復していない状態にも関わらず、僕にChangeしたものだから、少々お疲れの様にも見える。
まぁ、実際には
「いや、それにしてもさぁ……」
恐らく、久しぶりに安心して眠る事が出来たんだろうな
ただ、昼から別の
幸いな事にお母さんはまだ帰って来てなかったみたいだし。
たぶん
「あれはちょっとやりすぎだよぉ。ほらさぁ、あの……小高い丘の
『うむ。アレは
「なっ! 何言ってるんだよぉ、もぉ……クロったらさぁ」
『なんだタケシ。あの表現では不満か? だったら最初からお前が
「うっ、うん。まぁ、そうなんだけどさぁ……」
なんやかんやで、十分
別れ際に見せた彼女の表情は、僕の知っている少女のソレでは無く、いつの間にか僕の知らない「女の顔」になっている様な気がして。
何だか複雑だよなぁ……。
そんな割り切れない思いを胸に抱いたまま、僕とクロは駅前の繁華街へ。
「あ、ココだ。このファミレスで待ち合わせなんだよ」
僕は店の前の駐輪場に自転車をとめると、早速ファミレスの中へ。
「いらっしゃいませぇ。何名様ですか?」
「あぁ、えぇっと、待ち合わせで……」
割と広めの店内。
その人は一番奥のボックス席に一人で座っていたんだ。
「
「あぁ、
「
僕が座る間もなく、急に話し始める
何だか少し落ち着きが無い様な気もするけど。
「そう
「え? あぁ、はい。……どうしてそれを?」
「やっぱりそうか。僕の所にも色々と情報が入って来てね」
「はぁ……」
どうしたんだろう。何かあったのかな?
何んだか深刻な
組んだ両手の指を時折
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれるかな?」
「あぁ、えぇっと。先日僕の友人が
「そうかぁ。その
「あぁ、えぇっと、佐竹が犯人かどうかは分からないんですけど……」
いや、佐竹が犯人で間違いない。
何しろ僕は直接被害を受けた飯田の記憶を見ている訳だからな。
でもそれをここで言っても理解はしてもらえないだろう。
ここは知らない
「そうかぁ……。実はね、僕の仲間も色々と嫌がらせを受けていてさぁ。どうやらその犯人が佐竹らしいんだよ」
マジかぁ……。
あんの野郎、僕以外の人達にまでちょっかい出してるって事なのか?
でも一体なぜそんな事を?
「今回の一連の事件。昔からアイツの事を知っている僕にしてみれば、かなり意外な行動だと思えて仕方がないんだ」
「意外……ですか」
「そう、意外だよ。昔から
あぁ、確かに。
間違い無く
「となれば、佐竹を裏で
「裏……で?」
「そうさ。佐竹に入れ知恵するヤツ。まぁ、そう考えると相手はおのずと見えて来ると言うものだけど」
「……あっ」
「
「もしかして、それって北条さん? の事ですか?」
小さく
「そう。あの佐竹に入れ知恵出来るとすれば、北条君しか考えられないんだ」
「いや、でも……」
確かに北条さんの可能性は否定できない。
佐竹より上位の人間と言えば、今の所北条さんだけだろう。
ただ、北条さんは
その人が佐竹を使って僕に嫌がらせをする理由が分からない。
「ん? 何か北条くんの事で引っかかる事でもあるのかい?」
それに、今ここでその事を
「あぁ、いや特には……でもあの北条さんがそんな事をするとは思えなくて」
「いや、そんな事は無いよ。北条君には十分な理由があるのさ」
「え? と言いますと?」
「正直な話、いま嫌がらせを受けているのは
「ま、マジですか」
「
「で、でも。北条さんは
「あはは。とある組織ねぇ。まぁ、ここでは
そうなんだよなぁ。
「前にも話したけど、僕たちの
って事は、佐竹の個人的な
「
「あぁ、いや。
「あぁ、うん。この件なんだけど、実はもう一つお願い事があってね。以前話をした時にキミが言っていた、
あぁ、確かにそんな事を言ってたな。
あの時は
「どうだろう。今更だけど、もう一度正式に考えてもらえないかな?」
「え? それはまた、どうして急に?」
「正直な話、武闘派の
そう言えば、
ただなぁ。僕が
「
「いや、
そう言われてみれば……。
でもやっぱり……。
「となればだ。この抗争を終わらせるには
「いや、そう言われますけど。北条君はいま時点で僕が
「その通り。そこでだ!」
急にテーブルの上に身を乗り出して来る
「
いやいやいや。
感づくどころか、メチャメチャ知ってますよ。
知ってるどころか、保健室で
えぇ、とんでもない目に会いましたよ。いやマジで。
「先生は
「うっ、うぅぅん……」
深入りするのは避けたいけれど、話し合いに立ち会うだけなら問題無いか?
最悪、僕一人であれば、何か問題が起きたとしてもどうとでも出来るだろうし……。
「……わ、分りました。それで抗争が収束するのなら協力させて頂きます。でも、取引条件ってどうなるんですか? このままだと一方的にヤラれっぱなしって事になるんじゃないですかね?」
「あぁ、そうだね。とりあえずこう言った問題は、金で解決するのが一番手っ取り早いんだけど。でもそれじゃ、あまりにも不公平だよな。僕たちからも何らかの要求が必要だろうね」
「あっ、あのぉ……」
「何だい?
「もし、もしこちら側の要求が通る様だったらで構わないんですけど。佐竹の身柄をもらい受ける事は出来ないでしょうか?」
「佐竹の身柄を?」
「えぇ、そうです。アイツのおかげで僕の友人を始め、多くの人達が
僕の話を聞いた後、
「……うん。そうだね。そうかもしれない。誰に指図されたにせよ、実際行為に及んだのは佐竹本人だ。アイツにはそれなりの
「あっ、ありがとうございます」
「いやいや。こちらこそ
「……あぁそうそう。それからね。その手打ちの場所と時間だけど、今日これから渋谷の
「えっ!! 今日、これから……ですかっ!」
「そうなんだ。たまたま今日しか時間が合わなくてさ。それにこう言う話はこれ以上被害が広がらないうちに、早く済まさないとね」
「はっ、はぁぁ……」
いや、
「あぁ、
そう言いながら、僕はリュックのポケットからスマホを取り出したのさ。
まぁ、実際問題今日は何の予定も入ってはいない。
なんだったら
何しろ、飯田の件も含めて色々と相談できるのは、今の所
どちらが相談し易いかと言えば、当然
――ピポン!
とここで、僕のスマホにSNSの着信が。
ん? 誰からだろう。
あ、
えぇっと。なになに?
――助けて!ウチのお兄ちゃんの
マジ……か。
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