第1話 滅殺

『ウオオォアアァァ!!!』


 地面を揺らす程の強烈な雄叫びを上げるギガロスは、その叫びで周囲の魔物が集まってくる事を感知する。


 魔物種は、狼型や鳥型のこの世界では一般的な魔物。狼の魔物は、唸り声を上げながらギガロスに背後から飛び付き、背中に思いっきり噛みつく。


 しかし、そんな攻撃はギガロスには全く無意味で、少し痒い背中を掻くように背中へ手を伸ばすギガロスは、背中に噛みつく狼の魔物を巨大な岩のように硬い剛毛の手で、グシャリと握り潰す。狼の魔物は断末魔を上げる暇も無く、体液と共に四散。原型は一瞬でなくす。


 次に鳥型の魔物。二つの大きな翼を持つ鳥の魔物は、ギガロスの首を掴むべく上空から急降下し、ギガロスに向かって垂直落下。


 上に気配を感じたギガロスは、ストレートに真上に向かって拳を突き出すと、たったその一撃で鳥の魔物は爆発四散。


 吹き飛ぶ以前の問題で、自分を遥かに超える質量で殴られた衝撃は、鳥が吹き飛ぶのを見る暇も無い程に、一瞬で鳥は消滅する。


『ンンンンン……フスーッ!』


 呆気なく終わった初戦闘にギガロスはどこか満足せずに、鼻息を鳴らす。


 次の獲物を探そうと嗅覚を研ぎ澄ます。そして見つける。人間とその肉の匂いを。


『ングアアアァッ!!』


 見つければ直ぐにその方向へ、手足を使って四足で荒野を走る。体長は五メートルを超え、その手足が地面を蹴る度に地響きを起こす。


 そして目的地に到着する。そこでは焚き火とテントが貼られており、確かに人間がそこを拠点としている事が分かった。


 この時、ギガロスは感知した肉の匂いとは、焚き火でじっくりと焼かれる中型魔物の丸焼きだった。ギガロスはそれに躊躇い無く食らいつく。まだその体に慣れていないのか、火炙りされる肉に飛び込むような姿勢。肉は確かにギガロスの口に入るが、その無理な姿勢が原因か、一気にギガロスの体を炎で燃え上がらせる。


『ギャイヤアアアァァッ!!??』


 一瞬で火達磨になるギガロスは何事かと、炎に包まれながら暴れ回る。ただそれだけで炎が消える筈も無く、ギガロスは断末魔をあげながら、遂に骨になるまで焼かれてしまった。


 暫くすると、その場に三人の人間が戻ってきた。三人の人間は、待ちに待っていた魔物肉か何者かに喰われている事以上に、目の前に転がる巨大な白骨に恐れ慄く。


「おいおい……こんな魔物が居るなんて聞いてねぇよ……」

「此処はやべぇ。さっさと帰ろうぜ!?」

「あ、あぁ……」


 人間達は、ギガロスの白骨体を前に、そそくさと荷物を整理し、テントを折り畳み、帰らうとする。しかし、帰る作業が終わった頃に、一人の人間が、ギガロスの死体を見て恐れのあまり硬直する。


「あ……あ! う、嘘だろ……?」

「あ? どうした? て……はぁ?」


 危険を察知し、帰ろうとギガロスの方を振り向く人間が見た物とは、確かに死んでいた筈の白骨体が完全に修復し、僅かに呼吸をしているギガロスだった。


「逃げろ……にげろ逃げろ逃げろおおおおぉ!! うわあああぁ!!」


 こんな巨体の魔物が起き上がれば死ぬ事は確実。そう、察知した人間は兎に角がむしゃらに、ただ後ろを振り向かずに兎に角走る。


 しかし時は既に遅かった。全力で逃げる三人の内一人の人間が、突然残りの二人の目の前でバラバラに吹き飛ぶのだった。


 死因は、ギガロスが起き上がり様に人間の叫び声を聞き、獲物を逃すまいと思いっきり投げた岩石だった。


 直径二メートル以上の巨大な岩石。正確には『砕いた地面』は、そう速くは投げられなくとも人間の体を一撃で破壊するには十分な質量だった。


「うわああああ!! 畜生おおおぉ!!」

「無理だ! 追いつかれるッ!?」


『ウオオオオオオ!!!!』


 更なる威嚇の為に咆哮を上げるギガロスは、次に地面を砕く程の強さで蹴り、猛スピードで二人の人間に簡単に追い付く。


 そして、追いかけながらギガロスは両手で二人の人間の胴体を鷲掴みする。当然のその握力は一万キロを下回らず、背骨を折るどころか、一握りで半身を分断させる。


「ぎゃぁっっ!?」


『ンンンン!! アガアアァ!!』


 そうしてギガロスは吹き飛んだ上半身と下半身をそれぞれ二人を拾うと、一つに合体。握り潰し、ムシャムシャと喰らう。


『モグモグ……グチャア……モグモグ……ゴクッ』


 しっかりと咀嚼し、二人の人間を飲み込んだ。そこで一つの変化が出た。まだ意志疎通が出来るとは言えないが、ギガロスは言葉を話した。


『ウマイ……ウマイ……ウウウウ……』


 元々人間だったのだから言葉が話せて当然だと思うが、改造に改造を重ねられたギガロスは、脳がただ『殺す』という考えしか出来なくなるまで退化し、記憶さえも消えてしまったギガロスにはこれは、戻ったのでは無く、成長という言葉になる。


 ギガロスはまた雄叫びを上げた。研究者の言う通り、人間を殺した喜びに。

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