第313話 その絶望を知るゆえに
「……シリウス様も繰り返しを?」
「何度となくしたよ。魔眼を制御するのに手間取ってね」
驚いたような表情のアンネに昔を思い出すように肩をすくめる。
同じ時間を永遠と繰り返す……言うのは容易いけど、精神的負担は計り知れない。
俺は半分壊れていたようなものだったし、数万、数億のやり直し程度なら何とかなったけど、常人なら発狂して精神を砕かれていてもおかしくないレベルの苦行のはず。
アンネの様子を見るに、そこまでの回数はいってなくても数百程度は繰り返しててもおかしくない様子だ。
「期間は恐らく一月単位位かな?その1ヶ月でヌロスレアは何度も滅びている。その壊滅によって、君は何度も同じ時間を繰り返してる……違うかな?」
そう聞くと、益々驚いたような顔をしてから、こくりと頷くアンネ。
その様子である程度のアンネ周りの事情も把握出来た。
更に軽く話すと、アンネは俺を信じても良いと思ったのか詳しく自身のことを話してくれた。
「昔は本当に数回程度でした」
アンネが魔眼を宿したのは3歳の頃らしい。
その当時はまだ、魔眼が馴染んでないのもあって、たまに繰り返す程度だったが、年々大きくなるにつれて繰り返しの回数は多くなったそうだ。
「最初は自分が死んだ夢を見ていたような感じだったんです」
しかし、繰り返す度にそうでは無いと感じるようになり、母親代わりの侍女にそれとなく相談した結果、とある孤児院を運営していたその手のことにも詳しいシスターさんによって、魔眼の存在を認識したそうな。
「……夢だと思いたかったんです」
それが自分の未来の姿だと想像するといつも怖くて、人と関わるとその人の死も見てしまって、自然と人から遠ざかってしまう。
母親は彼女が生まれたばかりの頃に病で亡くなり、父親とは話したこともない。
この屋敷で、アンネに接するのは一部の姉と妹……そしてケイオスと母親代わりの侍女さんのみだったらしい。
「私の感覚であと二週間……その頃にヌロスレアは滅びます」
理由は毎回違うけど、必ず一月ピッタリでヌロスレアは滅びるらしい。
そして、その度にアンネは何度となく家族の死を見て、自身の死を体感してるそうだ。
「……もう、嫌なんです。苦しい想いをするのも、死ぬのも嫌なんです。でも……それ以上にケイオスお兄様やお姉様達の死を見るのが耐えられません……」
カタカタと震えるアンネ。
脳裏に焼き付いているのか、フラッシュバックする兄たちの惨い姿と、自身の苦しい死の痛みや恐怖で震えてしまうのだろう。
そんな彼女の様子に俺は放っておけないと思い、思わずアンネを優しく抱きしめていた。
「大丈夫。俺が何とかするから。だから、これ以上苦しい思いも悲しい思いもすることはないよ。だから……安心していいんだよ」
そう言うと、ポロポロと涙を零して泣き始めるアンネ。
初対面のはずだが、彼女の苦しみは良く理解ができるので他人事とは思えなかった。
彼女もそう感じたのか、俺に縋るように泣き続ける。
落ち着くまで優しく頭を撫でて、安心させながら、俺はヌロスレアの事をもう少し頑張ろうと決めるのであった。
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