第224話 知ってる人

存分に大人の時間を楽しんでから、全く酔わない体質は変わらないなと苦笑しながら、お店を出ると、そこそこ良い時間帯になっていた。


もう少しだけ歩いてから、帰ろうかと思いつつも、その前に人目のない場所で大人モードを解く必要があるので、さて何処にしようかと視線を巡らせていると、お店から飛び出してきたその子が俺の元まで走りよってくる。


「あ、あの!」


見れば、その子は先程のバーの店主の娘さんであった。


「何か?」

「あの、えっと……すぅ……はぁ……よしっ!」


息を整えてから、深呼吸をして、その子は意を決したように言った。


「ずっと、探してました……会いたかったです、英雄さん!」


……英雄さん?


「あ、えっと、こちらの世界では名前が違うのかも……というか、そもそも本名を知らないので違うのかもしれませんが、私にとっては英雄さんは英雄さんなので、あの……」

「……もしかして、君転生者かな?」

「そ、そうです!やっぱり英雄さんなんですね!」


ふむ、話がまるで見えなかったけど、『転生者』と『英雄さん』というワードで何となく話が見えてきた。


要するに、この子は英雄時代の前世の俺を知ってる転生者という事だろう。


見た目的には、今の俺は英雄時代の前世の俺だし、覚えてるのならバレても不思議はないけど……にしても、困った。


目の前の女の子を見て、前世で会ったような気はしても、具体的に誰だったかまではまるで思い出せない。


……でも、こんなにキラキラした目を向けてくるこの子にそれを言うのはかなり残酷だし、どうしたものか。


「あの時は本当にありがとうございました。私、英雄さんに助けてもらって、ずっとずっとお礼が言いたくて……でも、英雄さんは私がお礼を言う前に亡くなったと聞いて、凄く後悔して……だから、こうして英雄さんが転生した世界にもう一回生まれ変われて、こうして会える日をずっと待ちわびていました!」


テンションが上がってあれこれと話してくれるその子だけど、流石にこれ以上は他の人に聞かれても面倒になるし、とりあえず移動した方がいいかもしれないな。


「そっか。時間あるなら少し話でもしない?無理なら後日でもいいけど」

「お父さんに許可貰ってきます!」


ビューっとダッシュでバーに入っていくその子の様子から、かなり俺に夢を見てそうなので、今世の姿を見せたらどうなるのか少し不安になりつつも、とりあえず今世の人達には前世のことを口止めするように頼むのは忘れないようにしないといけないので、何とか上手くやらないとね。


少しづつだけど、あの子のことを思い出せそうになってるし、とりあえず落ち着いて話してれば思い出せるくらいには記憶に残ってるようなのでそこはとりあえず一安心かな?


何にしても、過去の俺は過去の俺なので、そこはわかってもらいたいけど……夢を壊すのも悪いよなぁ……悩ましい。






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