第189話 姪は日々の進化する
「そういえば、今日はティーには会ってないの?」
道中、そんな事をふと尋ねてくるレグルス兄様。
「ええ、まだですね。入学の報告やらが先だったので」
「そうなるとそろそろかな?」
何が?と尋ねる前に俺は「おじちゃまー!」という声と共に横から襲撃を受けた。
綺麗な不意打ちに年々増してくるタックルの威力が合わさり、俺の横腹にグリグリと追撃が来る。
「おじちゃま!おめでとう!」
何とか踏ん張って受け止めてから、満足したティファニーが顔を上げると何とも輝く笑みで祝われる。
「……ティーさんや、ありがとう」
「どういたしまちて!」
その返事は果たして正しいのかは不明だけど、悪意のない笑みを見てると許せてしまうから不思議だ。
「ティー、遅かったね」
そんな俺とティファニーのいつものやり取りを見守っていたレグルス兄様からのお言葉。
まるで察知して来るのが前提のような言葉だけど事実なので恐ろしい。
俺は別にティファニーに今日来るとは一言も言ってないし、城の人間が教えたにしろ広い敷地内だけで場所の候補は無数なので普通は特定なんて困難なのだが……それが天然で出来てしまうのが我が姪の凄いところであった。
というか、年々精度が上がってきてる気がするけど……気のせいかな?
そんな俺はともかく、俺に嬉しそうに抱きついてるティファニーはそれに対して実にいい笑顔で答える。
「今なら行けると思いました!」
……何が?
「なるほど、そうだティー。シリウスと婚約したいかな?」
「こんやく?」
「結婚の約束だよ」
「したいでしゅ!」
「なら決まりだね」
俺が困惑していると、普通のノリでそんな会話になってしまう。
えっと、冗談だよね?
うん、レグルス兄様もティファニーもお茶目さんだからなぁ……仕方ない。
「おかあさまー!おじちゃまと結婚することになりましたー!」
現実逃避していると、城内で大声を出しながら母親である義姉の元に向かうティファニー。
その言葉に誰も驚きてないことに俺が逆に驚いたほどだ。
「ね、大丈夫でしょ?」
「……普通もう少しリアクションありますよね?」
「だから、僕が外堀は埋めといたんだよ」
なるほど、流石はレグルス兄様だ。
余程用意周到にやったに違いない。
まあ、それ以前に子供の可愛い冗談にも聞こえるからそちらの可能性もあるよね。
実際、ティファニーの声で義姉……レグルス兄様の奥さんでティファニーのお母さんは大声を出したティファニーを注意しつつも「良かったわねぇ」と実に微笑ましそうであった。
……それでいいの?
「そんな訳で、成人したら頼んだよ」
「おじちゃま、大好きー!」
「……うん、ありがとうティー」
先のことはその時考えよう。
俺はとりあえず抱きついてくる姪の頭を撫でて、そう結論を出して本日は納得しておく。
先の情勢で変わるのが婚約だからね。
これが本当だったとしても、姪にそのうち好きな人が出来ればその時はそちらに行ってもらえばいい話だし……よし、気を楽にしていこう。
レグルス兄様から入学祝いを貰ってからそう思う俺は意外と余裕なのかもしれないと自分でも思ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます