第186話 気持ちの強さ
「それでキャンディ、その手のものは何だ?」
謎の挙動をするキャンディを見ていると、そんな風に声をかけてくるゾルニ。
気を使って……という様子ではないね。
あれかな、娘の作った見せたい作品が気になったとかそんな感じがピッタリに思えた。
「そ、そうだった。今回のは自信作だから!」
「言うじゃないか。どれ……」
キャンディから短剣を受けると、色んな角度から眺めて……ゾルニはため息をついた。
「足りん。この程度では仕事はやれんな」
「ぐぬぬ……自信あったのにぃ……」
「お前は腕は悪くないのに、剣に込める気持ちが足らんのだ」
「また根性論かよー」
不貞腐れたようにそっぽを向くと、俺と視線がかち合い慌てて逸らすキャンディ。
……嫌われたのかな?
「あの、気持ちとは?」
レグルス兄様が気になったのか先程のキャンディへのアドバイスに疑問を投げかける。
すると、ゾルニはそれに対して実に堂々と答えた。
「どんな物を作る時も同じだ。どんなに造り手の腕が良くてもそこに心からの気持ちが乗らないとそれは未完成にしかならん。ましてやワシらの作っているのは戦士が命をかける武器だ。それが無いのなら客を取らせる訳にはいかん」
一見、根性論にも思えるけど、実は俺にも少し覚えのある言葉であった。
前世よりも魔法や奇跡が身近なだけに、そういう一見ただの根性論のようなものであっても、一流と呼ばれる職人にしか見えない要素があるのだ。
「ゾルニ殿はいつも武器にどんな気持ちを込めているのですか?」
「その武器によって違う。例えばその聖魔剣なら、ワシが込めたのは『高みへの気持ち』だ」
「高み?」
「最高の使い手によって、更に上に上って欲しいということだ」
レグルス兄様が何とも微妙な表情になったけど、こればっかりは物を作る人にしか理解できないのだろう。
「シリウスは分かったかい?」
「ええ、何となくは」
「凄いな、やっぱりシリウスは発想力があるからかもしれないね」
兄からのピュアな評価に心が痛くなりそうにもなるけど、前世を持ち出す気はないので受け流しておく。
「けどさ、そろそろ俺も誰かのために武器を作ってみたいしさぁ」
なるほど、そういうのは憧れるよね。
それにしても、一人称が『俺』という女性に会ったのは久しぶりかもしれない。
英雄の前世で冒険者の女性に居たけど、皆ガタイのいいレディだったので、可愛い系統の『俺っ子』には初遭遇な気がする。
「ダメだ……と言いたいが、そうだな……一人だけ考えなくもない相手がいる」
「本当に?」
「ああ」
はてさて、ゾルニのお眼鏡に適ったのは誰なのか?まあ、俺には関係ないかなぁと思っていると、ゾルニが俺へと視線を向ける。
……嫌な予感が。
「シリウスの坊主、協力を頼んだぞ」
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