第152話 妖精聖女
「なあ、坊主。俺が来る必要あったのか?」
「虎太郎も当事者なんだし来て当然じゃない?あと、俺の護衛とか」
「坊主に護衛なんていらないだろうに……まあ
いいが」
和食ですっかりと忘れて……もとい、タイミングを逃していたダークエルフの里への訪問。
それを思い出したので、俺は虎太郎を連れて再びダークエルフの里へと足を運んでいた。
後日色々話すと約束してしまったし、来ない訳にも行かなかったが、一人で来て感謝されるのは物凄く気恥しいし大袈裟に思えてしまうので、巻き添えに虎太郎を連れてきたが、正解だったかもしれない。
「あ!妖精聖女様だ!」
「聖女様、この前はありがとう!」
「怖いお兄ちゃんもありがとう!」
ダークエルフの里の子供達にそんな風に声を掛けられたかと思えば
「聖女様、この前は本当にありがとうございました。つまらないものですがこちらをどうかお納め頂きたく……」
「今日の狩りの獲物だが、中々上質な肉だから聖女様達で食ってくれよ」
と、貢物でもするかのように色々と貰ってしまう。
治療した人や石化解除した人達が特に多かっただろうか?
これは虎太郎を連れてきて正解だったなと自分の判断の正しさを実感しつつも、一つの疑問に行き着く。
「……ところで、妖精聖女って何?」
聖女だけでも意味不明なのに、その前に妖精が着く違和感。
ダークエルフ達の場合、族長やエデル達ごく一部しか妖精の存在を知らないはずだし、増してや俺が妖精界に行ったり、ミルをお持ち帰りした事実をエデルや族長が話すとは思えずに困惑してしまう。
「分からないなら聞くのが手っ取り早いだろ」
「それもそうだね」
とはいえ、俺から聞くのはなんか恥ずかしいので虎太郎に代わりに聞いて貰って分かったのが、『妖精のように神秘的な聖女様』という所からそんなあだ名がダークエルフ達の間で共通になってしまったということらしい。
……うん、色々おかしいよね。
「坊主は本格的に聖女様デビューか。赤飯でも炊かないとな」
「本当に止めて。というか、フィリア達には絶対言わないでよ」
「わーってるって。にしても、妖精聖女ねぇ……エデルの奴顔青くしてそうだよなぁ」
何とも楽しげな虎太郎だが、確かにこんな呼び名になったことで俺よりもエデルや族長の方が頭が痛くなってそうではあった。
機密をほぼ正確に捉えてるようなあだ名だし、公にそれを否定する真似は出来ない。
そんな事をして、疑われても困るし、秘密を秘密のままにするには沈黙が最もベターな選択でもあるのだろう。
まあ、沈黙こそ大きな合図とも言えるのだが、ダークエルフの里から俺のことが外部に漏れることは、俺自身が何かしないとほぼ無いし問題ないと言えば問題はないと言える。
とはいえ、しばらくはダークエルフの里の中では俺は目立ってしまうか。
うーん、やっぱり俺があまり来ない方向で収束を待つのが得策かな?
「というか、俺は男なんだけどね」
「パッと見坊主は女の子にも見えるしいいだろ。現に坊主の領地の領民の中でも聖女ってあだ名が使われることあるしな」
「聞きたくない真実だなぁ……」
せめて聖人とかの方がマシ……でもないな、うん。
我ながら、心の闇が深いし聖なる人とはとても名乗れないような生き方をしてきたしね。
女神様にそう名乗れと言われたら、躊躇うことなく名乗る気はあるが、あのお優しい女神様がそんな事を言うとは思えないので、まあ、結局落ち着くのを待つのがいいのかもしれない。
「何にしても、さっさとエデルに会おうぜ」
「そうだね」
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