第127話 旧友を深める

「ふっふっふ〜、これで、他の人には聞かれませんね。では、改めて……お久しぶりです、人間さん」


門を潜ると、短い感覚の門と門の間の空間があったのだが、そこでミルは待ちわびたと言わんばかりに、嬉しそうに俺に抱きつく。


正確には俺の頬に張り付いてスリスリとしているが……やっぱり、女王経由で俺の事が分かったらしい。


「うん、久しぶりミル。やっぱり女王様はお見通しだったか。前に会った時は短時間だし忘れてるかと思ったけど……」

「それはないですよ〜。私達にお菓子を教えたのは、他ならぬ人間さんなのですから〜。でも、また会えて嬉しいですよ〜」


忘れられていてもおかしくないのだが、お菓子を妖精に餌付けするように、お供えした功績で覚えてくれていたようだ。


「でも、なんか前と人間さんのサイズが違いますね〜。あと、可愛くなってます〜」

「諸事情で生まれ変わってね。なるべくなら、妖精さん達や神様関連の人達以外には、生まれ変わったことは黙ってて欲しいんだけど……」

「いいですよ〜」


ニコニコと、実に機嫌良さげに頷くミル。


ふわふわしてるような性格ではあっても、約束は守る子なので恐らく大丈夫だろう。


「ありがとう。これは、今世で作ったお菓子だけど、後で他の妖精さんの分も渡すね」

「わ〜、相変わらず人間さんは器用なんですね〜」


マカロンを渡すと、嬉しそうに俺の肩で食べ始めるが、これは買収ではないので、勘違いしないように。


なんか分からないけど、ミルを見てるとついついお世話したくなる気分にさせられるのだが、これも魅力というものなのだろう。


我が姪である、ティファニーなんかも、これに近いものを持ってるイメージがある。


「女王陛下の元に行く前に、一つ聞きたいんだけど……この世界以外に、今妖精界にアクセス出来る場所ってあったりするの?」

「無いと思いますよ〜。人間さんみたいな人は滅多に居ませんし、この世界も変な神との取り引きでそのままにしてるだけらしいですし〜」

「それもそうか」


そうなると、俺の元いた英雄時代の世界の、開いてしまった妖精界との門の方は、何とか正常に閉じることが出来たようでホッとする。


我ながら、刻一刻と削れていくメンタルと体で、一度開いた妖精界とその世界との門を閉じたので、上手く行っていたのか少し気掛かりだったが……ミルの話では、恐らく成功したと思われる。


まあ、言葉の解釈の上では、滅んだという線も考えられるが……過去の気掛かりだし、そう気にしても仕方ないだろう。


「でも、また会えて良かったですよ〜。お菓子もですけど、人間さんは話してて楽しいですし、女王様も気にかけて居られましたしね〜」

「女王陛下も?」


妖精の女王……妖精女王と略した方が楽かな?


過去に一度会ったことはあるが、その時は交渉みたいなこともしたし、色々頑張ったなぁ……まあ、正直人間相手よりも余程楽で楽しかったけど。


良くも悪くも、人外の種族の方が裏表が少ないことが多い。


高位の存在ほど、その傾向は強いのだが、邪神のような例外はさておき、妖精なんかは本当に話してて余計な負担が少なくて助かる。


その過去の訪問で、ミル以外に親しくなった中には、実は妖精女王も含まれていたりする。


「女王様、人間さんの話は楽しげにされてましたしね〜、あと、少し心配もしてましたけど〜」

「心配?」

「ええ〜、人間さんは、何か枷を背負わされてるようだと、仰ってました〜。あと、人間さんの命が失われたら、今度は私達の仲間にしようとも言ってましたよ〜」


……それって、俺も妖精になっていた可能性もあるってこと?


確かに、妖精女王ならその程度のことは可能だろうが、過去には例の無さげは話のはず。


そこに食い込むかもしれない程には、妖精女王に気にかけて貰っていたらしい。


「そっか。じゃあ、そのお礼もしないとね」


彼女たちからしたら、人間が俗世に縛られるというのが今一つ分からないはずなのに、それでも俺の状況に多少なりとも心配してくれており、彼女たちなりに配慮してくれていたのだと知れたのは大きい。


結果として、女神様に救われた俺だが、妖精さん達の仲間になっていた未来もあったかもしれない。


何にしても、俺は今幸せだし、妖精さん達とは仲良くしたいものだ。


そうして、俺は嬉しい気持ちを抱きつつ、ミルを肩に乗せて、久しぶりの妖精界へと足を踏み入れるのであった。







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