第114話 スペシャリスト

「母さん……目を開けてよ!母さん!」

「アニィ、アニィ……!」

「うぅ……どうしてこんなことに……」

「こりゃ、ひでぇな……」


族長の案内で、病人の所に着くと思わずそんな言葉を漏らす虎太郎。


そう言いたくなる気持ちは分からなくもなかった。


真っ青な顔をして苦しげにうめき声を上げるダークエルフ達、いつあの世に行くか分からない恐怖が湧くような惨状と言えた。


そして、家族や恋人、友人と大切な人達に寄り添い悲しんでいる人達の様子もそれを更に実感さられるものであった。


「酷いものだろ。あの忌々しい魔物のせいだ」


何とも歯がゆそうな表情を浮かべる族長。


「我らの知識にない魔物だが、魔法が効かないのが痛いところだ」

「でしょうね。念の為聞きますけど……その魔物の特徴って蜘蛛と蛇が混じったような異形な感じですよね?」

「そうらしいが……もしや心当たりがあるのか?」

「ええ、まあ 」


そっと、近くに寝ているダークエルフの男性に触れる。


近づくと良く状態が理解出来る。


うん、これなら問題ないかな。


「魔物の名称はラーニョセルペンティ。ダークエルフにとっては天敵と言えるような魔物でしょうね」

「天敵?」

「ええ、最もこの辺には本来この魔物は居ないはずなんですが……」


何だか作為的な物を感じなくもないが……それは後で考えるとしよう。


「この魔物には特殊な力がいくつかありまして、そのうちの1つがこの魔物の近くに居るとダークエルフは魔法を使えなくなるというものなんですよ」

「ん?ダークエルフだけなのか?」


首を傾げる虎太郎に俺は頷く。


「そう。そもそも少し特殊な魔物でね。エルフの創造神の一柱が作り出した大昔の負の遺産ってやつなんだ。エルフの創造神とダークエルフの創造神は互いを嫌いあってるから、その子を根絶やしにしようと軽く考えたんだろうね」

「なんと……だが、確かにあの邪神なら有り得なくもない話か」


結構、突拍子もない話に聞こえるかもしれないけど、ダークエルフの族長は過去の文献とエルフとの関係からその話の信憑性を高いと判断したようだ。


「だが、倒れた者たちはどういった理由なんだ?石化が奴の能力なのは分かるが……」

「簡単に言えば毒ですよ」

「毒だと?しかし……」


その程度でダークエルフが死ぬのかと言いたげな表情をされる。


まあ、ダークエルフは魔法だけでなく、身体のスペックも高いので普通の毒はまず効かないからこそ、あまりピンと来ないのだろう。


「これも、あの魔物の力なんですよ。ダークエルフのみに作用する毒……ラーニョセルペンティはその身からダークエルフを害する毒を拡散するんです。視認は難しいですが、この距離まで届くのだからかなり強い個体でしょうね」

「そんな……じゃあ、母さんは……」


近くで聞いていたらしい、母親に寄り添うダークエルフの少年は何とも悔しそうな表情を浮かべて母親を見る。


その瞳に涙を浮かべている少年に俺は微笑むと、そっと母親に触れて魔法を発動する。


とはいえ、普通の魔法では効果は薄い。


なので、毒を消すために魔力に仙術を加えて治癒を始める。


どこかホッとする、淡い光が女性を包み……やがて消えていく。


「うん……あれ?ここは……」


そして、数秒後にうっすらと目を開けて元気そうな様子で起き上がる女性の姿がそこにはあった。


「母さん!」


嬉しそうに母親に抱きつく少年だが、俺はそれを横目に倒れている人たちを次々に治癒していくことにした。


全員、まだ毒が巡りきってなかったので、数分もしないうちに病人は消えていく。


「すげぇな、坊主は聖女様か何かってのは本気なのかもな」


虎太郎がそんな失礼なことを言うが……ダークエルフにまでそんなあだ名が広まるのは御免こうむりたい所。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る