第58話 夜の散歩
ここ数日、護衛をお願いしていたので、あまり近くに居られなかったペガサスのクイーンが不機嫌そうだったので、クイーンを連れて、フローラの部屋へと向かう。
コンコンと、ノックをしてから入ると、ベッドにはフローラが座っており、体調は良さそうだった。
それに安堵しつつも、枕が2つあることに密かにガッツポーズをしていたのだが――フローラは外を見ていたようで、その横顔には憧れが混じってるように思えた。
「あ、シリウス様。いらっしゃいませ」
俺が来るとニコリと笑って出迎えてくれるフローラ。
ふむ……
「フローラ、夕飯は食べれた?」
「はい、どの料理も美味しかったです。シリウス様、ありがとうございます」
「いいよ、じゃあ、気分転換に少し外に出ない?」
「外ですか?でも……」
歩けないフローラは、その提案に躊躇してるようだった。
そんなフローラに微笑みかけてから、「これからすることは内緒だよ?」とフローラとお世話係のメイドのアンネに言ってから、クイーンを窓の外で元のサイズに戻す。
「え……シリウス様、クイーンちゃんって……」
「うん、ペガサスだよ」
「凄く綺麗……って、シリウス様……?きゃっ……」
驚くフローラをお姫様抱っこしてから、俺は安全にクイーンに乗るとそのまま2人で夜の散歩へと出掛ける。
本日は、少し雲があるが、その分月明かりも綺麗に見えるもの。
これはこれで、いいロケーションだと思われる。
「わぁ……!凄いです!」
「どう?空の旅は?」
「最高です!」
「なら良かった」
「これが……これが、私の国なんですね」
初めての景色に興奮気味のフローラ。
今まで、出歩くことは出来なくて、厄集めの呪いのせいで病に苦しんでいたのだから、この程度の夜遊びは許して貰えるよね?
「あ、お兄様です!」
ふと、高度を落とすと、城の中でレグルス兄様と歩いているヘルメス義兄様を発見する。
結構距離あるのに、目がいいのだろうか?
そう思って、その空色の瞳を見つめると、フローラは恥ずかしそうに縮こまった。
「あ、あの……シリウス様?」
「ああ、ごめん。視力いいなって思って見てたけど、綺麗な空色の瞳に吸い込まれていたよ」
「そ、そうなんですか……」
思ったまま言うと、照れつつも笑みを浮かべるフローラ。
ヤバいな……可愛すぎる。
好みの容姿ってだけじゃなくて、性格まで好みかもしれないと思っていると、フローラはポツリと呟いた。
「……いいのでしょうか?こんなに幸せで……」
それは、どこか自傷を含んでいるように思えた。
まるで、自分は幸せになっちゃいけないみたいな……気のせいだろうか?
でも、言わずにはいられなかった。
「いいんだよ。だって、俺がこれからもっと幸せにしてみせるから」
紛れもない本心であった。
「でも……」
「俺のこと嫌い?」
「そんなことないです!むしろ……私なんかが、シリウス様みたいな素敵な人に幸せにして貰っていいのかなって思いまして……」
嫌がられてる訳ではないようだが……
「私、足だって動きませんし、子供だって出来るかどうか……」
「足が動かないなら、俺がこうして連れ出してあげるよ。子供だって出来なくても構わない。欲しければ養子でもとろうか」
「……いいのですか?私で……」
「君がいいんだよ、フローラ」
安い言葉で救えるなんて自惚れはない。
でも、心にあるその棘を少しでも和らげることは出来るはず。
すぐに信じなくてもいい。
これからの俺の行動でそれを示そう。
でも、言いたいことはちゃんと言うべきだろうと俺は言うことにする。
「改めてお願いするね。俺の婚約者になってください、フローラ」
「……はい、私で良ければ」
少しだけ瞳が潤んでいるように思えた。
俺が思ってるより、きっとこの娘は大変な人生を歩んできたのだろう。
だからこそ、俺はフローラを守りたいと思った。
フィリアの時も感じたこの気持ち……俺にとってもきっと、恋というものでもあるのだろう。
出会ってすぐだが、そう思えるのだから、俺はきっと自分の意思で動けてるのかもしれない。
月明かりとペガサスであるクイーンとのセットだけでも、かなりのシチュエーションではあったが、月明かりが反射する青い髪と空色の瞳はとても美しかった。
でも――1番綺麗だったのは、フローラの笑顔だったことは言うまでもないだろう。
そんな夜の散歩だったが、どうにもフィリア達に見られていたようで、次の日には私達もそのうち誘ってと、それとなく言われてしまうことになるのだが、この時の俺は知る由もなく、その時間を満喫していた。
まあ、別に婚約者との夜の散歩は楽しいし断る理由はないよね。
クイーンもこうして俺を乗せるのが楽しいらしくご機嫌だし、唯一不機嫌なのは自分も俺を運びたい!と頭の上でつついてくるフェニックスのフレイアちゃんくらいだが、そちらはそのうちということで。
不死鳥が舞ってたら、ペガサス以上に大騒ぎになりそうだし、頭の上に居る時間が長いのでそれで我慢して貰おう。
そんな頭に穴が開きそうなほどのつつく攻撃に涼しい顔をしてフローラにカッコつけてた俺は、頑張ったと思うけど、フローラの笑顔に勝てる気はしなかったのだった。
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