第46話 湯冷ましのついでに

フィリアとセシルとシャルティアの湯上りスタイルは素晴らしいものだと思いながら、俺は1人で外に出ていた。


火照った体を冷やすため……なんて、理由ではなく、面倒の種を見つけてしまったからだ。


「シリウス様?どちらへ?」

「気にしなくていいよ、今のところこの辺は安全だけど、一応用心しておいてね」


護衛にそう声をかけてから、俺は無属性の飛翔の魔法で空を飛ぶ。


うん、ペガサスとか居なくても魔法で空を飛ぶくらいは余裕なんだよね。


ちなみに、ペガサスのクイーンとユニコーンのナイトは婚約者達の護衛に残してきており、俺の頭の上に巣でも作ってそうな小鳥サイズのフェニックスのフレイアちゃんはちょんとちゃっかり乗っていた。


そういえば、お風呂とトイレと寝る時以外は常にこの子頭の上に居るなぁ……


まあ、いいけど。


そうして、俺たちの野宿地点からかなり離れた場所まで飛翔で飛ぶと、俺は上からその光景を見て思わずため息をついてしまう。


「アンデットねぇ……」


俺たちが次に通り過ぎる予定の街に1万を越えるアンデットの軍勢が押し寄せていたのだ。


冒険者や、騎士たちが応戦してるようだが……アンデットは、光の浄化の魔法じゃないと倒せない。


なので、神官たちも奮闘してるが、1万を相手にどれだけ持つか……


「まあ、見殺しは後味悪いしね」


滅んだ街をフィリア達に見せたくないし、さっさと倒すとしますか。


俺は、空中から1万のアンデットの軍勢に光の浄化魔法を発動させる。


流石に数が数なので、タメに少々時間がかかるが……ほんの数秒のことだ。


「よし、いけるかな」


巨大な魔法陣が浮かび上がり、アンデット達を包み込む。


「な、なんだ!この光は!」

「浄化魔法か?にしてもこの規模は……」


目ざとい何人かが、俺を見つけたようだが、それ以外の人達は皆消えてくアンデットに唖然としていた。


まあ、さっきまで防戦一方だったアンデットが一瞬で消えたらそういうなるのも分かる。


俺は、指揮官らしき人物の元へと下り立つと、その人に聞いた。


「詳しい話を聞きたいんだけど……いいかな?」

「シリウス殿下……ですか?」

「ん?俺を知ってるの?」

「国の式典にてお顔を拝見しました。それにしても、殿下が助けて下さったのですね」

「まあ、たまたまね。それで、偉い人と話したいんだけど……その前に、俺のことはあんまり広めないようにしておいてくれる?」

「かしこまりました。では、ご案内しますね」


余計な問答をしなくて良くて済んだが……まあ、光の魔法が使えることはバレてるし、仮に漏れてもある程度なら何とかなるだろう。


そうして連れてかれたのは、この街の領主館らしき場所だった。


趣味の良いとは言えないようなゴテゴテした感じの飾りが多かったが……まあ、他人の家なのでスルーしておく。


案内された室内へで待つこと数分。


やって来たのはやつれ気味の初老の男性だった。


「すみません、お待たせしました。私はこの地をデモンシュ男爵様より預かっております、ステイルと申します」

「第3王子のシリウスだ」

「この度は誠にありがとうございました。殿下が居なかったらこの街はお終いでしたから……」

「それはいいけど……大丈夫?」


余りにも過労にしか見えないその姿に思わずそう聞くとステイルは苦笑しながら答えた。


「いえ、普段の業務と重なって今回のことですから。デモンシュ男爵様も逃げてしまわれましたし……」

「逃げた?というか、ここは代官地では無かったように思えたけど……」


俺の記憶が確かなら、デモンシュ男爵は二つの領地を持っており、こちらにメインで住んでるという報告があったはず。


「普段の仕事にもあの方は私のような代官を立ててるのです。実はこの騒動の最初に、デモンシュ男爵様は隣の領地へと出発なされまして……アンデットの報告の後だというのに、真っ先に逃げたので、領民達からの苦情も酷くて、もうお手上げだったのです」


なるほど、1万のアンデットを前に颯爽と馬車に乗って他の領地へと逃げるとは思い切りのいいことだ。


「被害の方は?」

「殿下のお陰で最小限に留まりました。少なからず死傷者も出てますが……」

「そっか……とりあえず、負傷者が優先かな。詳しい話はその後ってことでもいい?」

「もしかして、殿下が治してくださるのですか?実は、神官たちも魔力の限界でして……」

「うん、まあ、流石に見過ごせないからね。呼んどいて悪いけど、案内を付けてくれる?」

「かしこまりました、すぐに」


本当は早めに帰りたいが、仕方ない。


詳しく話を聞く前に、負傷者の存在だけなんとかしないとね。


そうして連れてかれた救護所はまさに地獄だった。


アンデットの呪いで苦しむ冒険者に、鎧を貫かれた騎士、非戦闘員も少なからずアンデットによる被害があったのだろう。


ひとまず、重傷者から治癒を始めるが、数が多い。


「殿下、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」


魔力量の多さには自信があるので、枯渇することは有り得ない。


フィリア達の方にも行ってないかチェックはしてるが、特に問題なさそうだし、とにかく治していく。


「ありがとうございます、殿下……」

「気にしなくていいよ。よく頑張ったね」


俺が第3王子だというこのは広まってしまってるようだが、頑張った冒険者や騎士、そして大切な人を守ろうとした非戦闘員にも労いの言葉を忘れないでおく。


彼らのお陰で守られた命もあるのだから、それくらいは当然だろう。


ただ、所々の「聖女様みたい……」とか、「いや、なんとなく母性あるし聖母じゃね?」という呟きは無かったことにする。


聖人とか他にも言葉はあるが、それも俺には似合わないしね。


全ての人の治癒を終えると、えらく感謝されてしまったが……少し気恥ずかしく思いながら、領主館へと戻ると、更にくたびれたステイルが待っていた。


「……生きてる?」

「……デモンシュ男爵様への苦情もですが、何より被害も大きくて復興に時間がかかりそうです」

「そっか……で、聞きたいんだけど、この辺でアンデットなんて出たことあるの?」

「いえ……初めてのことです。しかも、突然1万の軍勢が現れたようでして……」


アンデットは自然に発生しない。


なので、いきなり1万も現れる訳ないが……現にこの街にこれだけ被害は出てる。


作為的に感じるが誰が……と、考えてふと、ステイルが何かを期待するような視線を向けてることに気づく。


「……殿下、お願いがございます」

「何かな?」

「この街を殿下の庇護下に置いて頂けませんか?」

「デモンシュ男爵は?」

「前々から、私も領民もデモンシュ男爵様には嫌気がさしておりまして……無理な重税に領民のことをまるで考えてないような行動。そこに殿下が現れまして、街を救い、聖女のように怪我人を治して、あまつさえ兵士に労いの言葉をかける……皆が殿下にそれを望んでおります」


……嫌なタイミングで来ちゃったな。


これ、アンデット騒ぎがなくてもクーデターとかあったんじゃね?


あと、聖女じゃないよ。


別に俺はそんなにいい人ではないし、当たり前のことをしてるだけなのだが……


まあ、それが当たり前じゃない時点で、デモンシュ男爵の人となりは俺より悪いというのは分かってしまう。


俺の領地からはそこそこ離れてて飛び地だし、管理が面倒だから要らないんだけど……これを見つけた時点で騒動には巻き込まるのは確定なのだろう。


無視して明日、何気なく通ったらフィリア達に迷惑かけそうだし、それは出来ない。


この領地のことも、デモンシュ男爵の処遇もその他もろもろ考えるべきこと、伝えるべきことは満載。


はぁ……とりあえずは報告かなぁ……


それで、場合によっては丸投げだな。


よし、それで一先ず解決させるとしよう。


そう思って俺は「とりあえず、陛下に確認してみる」と席を外すフリをして転移魔法で野営の屋敷に戻ると、レグルス兄様を連れて王都へと向かうことにした。


うん、これでレグルス兄様に押し付ける選択肢も増えた。


子供には遅い時間だし早めに寝るために話を片付けよう。











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