第91話 【コミック記念SS】水着百人一首を阻止せよ!(前編)

【コミカライズ一巻発売記念SS】

『彼女が先輩にNTRれたので、先輩の彼女をNTRます』

のコミカライズ一巻はついに明日(9月26日、月曜日)

に発売されます!

(一部では既に発売されているお店もあるみたいですが)


そんな訳で今回、コミカライズ一巻の発売記念SSを投稿する事にしました。

普段の話とは絡まない、バカバカしいお話ですが、楽しんで貰えればうれしいです。

なお後編は、本日夜に投稿します。

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城都大学イベント系サークル「和気藹々」。

このサークルには春夏秋冬それぞれの時期に、大きなイベントがある。

そして今、彼らは「夏合宿」の名の元に、千葉県の九十九里浜にやって来ていた。

サークル全体の集合時間は正午だが、それよりも一時間以上も早く、海の家の影に四人の男が集まっていた。


「エージェントI。協力予定者は落ちたか?」


背の高いメガネの男が、『エージェントI』と呼ばれたガッシリとした体格の男にそう言った。そんな体格にも似合わず、可愛い魔法少女のTシャツを彼は着ていた。


「いや、エージェントN。失敗した。協力予定者は俺の話に耳を傾けなかった」


背の高いメガネ男が『エージェントN』だ。返答を聞いた彼は渋い声で呟く。


「マズいな、それは。どう思う、エージェントY、エージェント・ムッシュ」


隣にいた目の細い男『エージェントY』もうなった。


「彼は第一ターゲットのお気に入りだ。彼の協力なくして、作戦の遂行は困難だ」


「エージェントY、第一ターゲットは最重要攻略目標だ。それなしでは、我々の計画の意義が半減する!」


彼らよりは背の低い小太り気味の男『エージェント・ムッシュ』が唸るようにそう言うと、再びエージェントIと呼ばれた男に顔を向けた。


「それだけじゃないぞ、石田、いやエージェントI。協力予定者は逆に我々の障害になる可能性がある。もし彼が我々の計画をターゲット達に漏らしたら……」


「佐藤、いや、エージェント・ムッシュ。それは大丈夫だ。優は、いや協力予定者は俺たちを裏切るようなヤツじゃない。ヤツとは中学時代からの付き合いだ」


「エージェントI。親友だからと言って、油断は禁物だぞ」


「解っているよ、西浜。いや、エージェントN。俺もこの作戦の重要性は十分に認識している」


石田はそう言ってエージェントNこと西浜を納得させようとした。


「ならいいが……山内、いや、エージェントY。おまえ、どう思う?」


西浜は目の細い男に意見を求める。


「この作戦は、ウチのサークルにとって最も重要な行事と言って過言じゃない。例え一色が敵に回ろうと、俺たちは必ずこの作戦を成功させねばならない!」


山内の強い決意を秘めた言葉に、石田、西浜、山内、佐藤は力強く頷いた。



「まったく……くだらない事を考えやがって……」


一色優はそう呟きながら真夏の太陽が光る砂浜に出た。

昨夜(夏合宿の前夜)に、石田から電話があったのだ。


「優、頼みがある!」


いつものノンビリした口調と違って、切迫した石田の言葉に優は驚いた。


「どうした? 何かあったのか?」


「サークルの存亡に関わる一大事だ!」


「なんだ、言ってみろ」


「これは優にとって苦痛を伴う事かもしれない。それでもオマエに頼むしかないんだ」


苦痛を伴う?

優は首を傾げた。だが親友の石田がここまで言うのは、よほどの事だろう。


「多少の事なら我慢するよ。ともかく内容を話してくれ」


「燈子先輩の水着写真に撮ってくれ!」


ピッ

優は無言で通話を切った。


だがすぐさま電話がかかってくる。優はそれも無言で「拒否」を押す。

三回ほど無言の攻防を重ね、四度目で優はやっと電話を受けた。


「いきなり切るなよおぉぉぉ!」


「切るに決まってんだろ! 珍しく深刻な口調で言うから何かと思ったら『燈子先輩の水着を撮れ』なんて。何が『サークル存亡に関わる』だ」


呆れかえった様子で優が答える。


「そう言うなよ。これはサークルの伝統行事であり、二年生男子に与えられた崇高なミッションなんだ。『水着百人一首』は知ってるだろ」


「ああ、女子の水着姿を水中カメラで撮って、それが誰かを当てるってヤツだろ」


……そう、これがサークルで代々受け継がれている男子だけの伝統行事『水着百人一首』だ。

普通に海辺で水着の女子を撮れば良さそうだが、誰が言い出したのか、


「水中で見る女子の身体は、超エロイ!」


と言う事で、密かに水中カメラを持って女子の水着姿を撮影するようになったのだ。

水中で写真を撮るため、首からは上は写らない。

そこで深夜に男子が集まって、女子の水中写真から「これは誰か」を当てあうのだ。

名付けて『水着百人一首』!


優も去年、先輩達がそれを酒の肴にやっているのを見たが、正直「くだらない」と思っていた。

さらに言えば、憧れの燈子先輩の『身体だけの水着写真』なんて、他の男の目に晒したくなかった……


「そうだよ。そのために優に燈子先輩の水中水着写真を撮って欲しいんだ!」


「そんなの協力する訳ないだろ。だいたい水着写真の盗撮のどこに『崇高さ』があるんだ?」


「優、おまえにはこの崇高さが解らないのか!」


石田は叫ぶように言った。


「青く淡い光の中で、幻想的に、そして蠱惑的に浮かぶビキニ姿の女子! そして普段の服の上からでは解らなかった見事な凹凸が、予想もしなかった女子だった時の興奮! もはやこれはアートなんだよ。『ミロのヴィーナス』や絵画『ヴィーナスの誕生』と同じだ!」


「女性のヌードがアートだったとしても、今のおまえからは劣情しか感じられないよ。そもそもなんで俺に頼むんだよ」


「燈子先輩はガードが堅いんだよ。今まで燈子先輩の水中水着写真は撮れた事がないんだ。そもそもいつも大き目のラッシュガードを着ているしな」


それは優も知っていた。去年も太腿まであるパーカータイプのラッシュガードを着ていたのだ。そのため身体の線は解らない。


「優が言えばさ、燈子先輩もきっとラッシューガードを脱いで海に入るんじゃないかって。だからみんなを代表して、俺が優に頼む事に……」


そんな石田の言葉を、優は最後まで聞かなかった。


「じゃあな、お休み」


そう言って問答無用で電話を切る。



「でもアイツラ、諦めてないだろうな、きっと」


優はそう独り言を言うと、周囲を見渡した。

水着百人一首を企てているのは石田だけじゃないはずだ。他にも複数の男子、場合によっては二~三年の男子全員がグルになっているかもしれない。


……燈子先輩の水中水着写真なんて、絶対に撮らせるもんか!……


優はそう固く決心し、周囲を油断なく見張っていた。


「どうしたの、一色君。そんな恐い顔をして」


声を掛けられて振り返ると、そこには桜島燈子がいた。一緒に居るのは燈子の親友である一美と、サークル中心女子の美奈、まなみ、綾香、有里の四人だ。


「あ、いや、九十九里浜って広いなぁって。波もけっこう高いし大丈夫かなと思って」


優はしどろもどろになりながらも、話を誤魔化そうとした。

いくら水着百人一首に反対とは言え、仲間を売るようなマネはできない。


そして……優の目線は無意識に燈子先輩の胸に吸い寄せられて行った。

パーカータイプのラッシュガードを着ているが、その豊かな胸の膨らみはその程度では隠しきれない。普段から燈子先輩の胸が大きい事は解っていたが、やはり生地が薄い水着では、そのラインがハッキリとわかる。


「他の男子はどこに言ったんだ?」


そう聞いたのは一美だ。彼女は現在、サークル代表でもある。


「さ、さぁ、どこ行ったんでしょうね」


優は動揺を隠しながら、そう答えた。



海の家の影。

四人の男が顔を寄せ合う。


「一色のヤツ、女子のご機嫌取りで俺たちの事をチクるんじゃないだろうな」


「優に限ってそんな事はないと思うが……燈子先輩を撮るのは邪魔するだろうな」


「燈子先輩の水着写真は絶対に撮れって、先輩達からもOBからも言われているからな」


「あのロケット〇っぱいを撮らずして、何を撮ると言うのだ。そこらのカニか?」


石田は西浜・山内・佐藤の顔を見渡した。


「カメラは二台だ。だが四人で接近すれば誰がカメラを持っているか解らない。二人が女性陣と優の目を引き付け、残り二人が潜水して写真を撮る。いいな?」


三人が頷いた。



「一色君、行ったよ!」


不意にそう言われて、優は慌ててビーチボールを追った。

だがビーチボールは水面に落ちる。

優は女性六人と一緒に海の上でボール遊びをしていた。

だがその目は、やって来るであろう写真係の男子を警戒していたのだ。


「ま~た、ボーっとして。」


「すみません」


「さっきから一色君、変だよ。なんかアタシらが居ない方ばかり見てるじゃない」


「え、え~と、そんな事ないです。あ~、岸から離れ過ぎないように注意しようと思って」


そう言っている間に、波の合間に黒い棒が突き出ている事に気が付いた。

誰かがシュノーケルで潜って近づいて来ているのだろう。


「ちょっと、アッチ見てきます」


「え、なんで?」


そう言った女子たちを尻目に、近寄って来たシュノーケルの方に優は泳いでいく。

そして両手で海水をすくってシュノーケルに流し込む。


「ブホッ!」


塩水を思いっきり吸い込んだ石田が海面に顔を出した。ゲホゲホとえずいた後、恨めしそうに優を見る。


「ひっでー事すんな。気管に水が入ったじゃねーか」


「オマエ達が燈子先輩の水中水着写真なんて撮ろうとするからだろ」


「仕方ねーじゃん。俺たちはサークル全男子の、夢と期待と夜の酒の肴を背負っているんだ。それを邪魔する優、今回はオマエが悪だ!」


「なにバカな事言ってんだ。そもそもこんな事、一美さんにバレたら大変だぞ」


「その危険を冒してでも、燈子先輩の水着写真は撮る価値がある!」


「俺がそんな事はさせない!」


「フッ、優。親友のオマエが敵に回るとは残念だぜ。これも宿命か?」


「たかが水着の盗撮で、何を偉そうに言ってんだ?」


優と石田は立ち泳ぎしながら、間抜けな言い合いを続けた。



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この続きは本日夜に公開します。

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