第74話

 え、ちょっと、さすがに剣の使い方は間違っていると思うんですよ。

 人に向けてはいけません。

「バーヌ、なんでルクマールさんに剣を向けるの?」

「あ、れ?ユーキ、お前、坊主じゃなかったのか?」

 ルクマールさんが慌てて私を地面におろしました。

「すまん、坊主だとばかり思って……」

 あ、女だってばれた?まぁ、男の子と女の子……私は子じゃないけど、だと、触れば肉の軟かさが違うし分かる人には分かりますよね。

「ルクマール、それ以上、何を、言うつもりだ?」

 なぜか、烈火のごとくバーヌが怒り始めました。

 どうしたのでしょう。

「ルクマール、じゃぁ、調書を作りたいから、ギルドへ一緒に行ってくれる?たぶん1週間はかかると思うけれど……」

「はぁ?一週間?」

「そうね。同じ話をギルド長、王都から来た調査員、ギルド本部の記録係と、最低でも3回から4回はしてもらうことになると思うし」

「じょ、冗談じゃねぇ。おい、金狼、ちょっと、待て、お前の仕事じゃないのか?お前がとどめ刺しただろう?」

 バーヌが楽しそうにルクマールさんの奴隷紋を見せました。

「僕は冒険者じゃないから、ギルドの話は知らない」

 ルクマールさんがうっと言葉につまり、それから叫んでいます。

「ずりー、ずりーぞ、金狼!」

「行きましょう、ユーキ」

 本当に嬉しそうにバーヌの尻尾が揺れています。

 楽しんですね。ルクマールさんとのじゃれあいみたいな会話。本当に楽しそう。

 もしかしたら冒険者時代からの顔見知りなのかもしれません。

「じゃぁな、灼熊のルクマール」

 ひらひらと手を振って、一緒に出張ギルドを後にしました。

「まてー、俺も、俺も奴隷になる、ユーキ、俺をお前の奴隷にしてくれっ!な?」

 は?

 なんか、変なことを言っています。

「やだー、やだー、調書とか報告書とか、めんどくせー、お偉いさんに説明とかやりたくない、ユーキ、俺、冒険者辞める、奴隷になるーっ!」

 振り返れば、フィーネさんたちが必死にルクマールさんを抑えて引きずっている姿が見えました。

「奴隷になったら、まずはギルドで調書を作るように命令しますから、それでもいいんですか?」

 と、ちょっとルクマールに意地悪を言ってみます。

 もちろん、命令なんてする気はないですし、それ以前に奴隷にする気なんて少しもありません。

「うぐっ」

 涙目のルクマールさんに手を振ります。

「嘘ですよ、またどこかで会ったら、今度はレバーフライじゃなくてとんかつか何か別の肉料理をごちそうしますから、頑張ってくださいね!」

「肉っ!」

 肉の単語一つで、ルクマールさんの目の色が変わりました。

 ふふ、楽しい人です。

「ユーキ、いつまでルクマール見てるんですか」

 はい?

 いつまでって、そんなに長い時間は見てないと思うんですけど?

「奴隷になりたいなんて、変なこと言ってたね、ルクマール。よっぽど調書が嫌なのかな……。奴隷なんて辞めたくても辞められない人がいっぱいいるのに……」

 視線を落とすと、バーヌの奴隷紋が目に入ってきた。

 ん?

 あれ?

「ねぇ、バーヌ、そういえば、主人の同意があれば、奴隷って解放されるんだよね?奴隷ギルドに行って解放してもらいましょう!」

「は?」

 バーヌが足を止める。

「僕が、いらないの?」

 尻尾が力なく垂れています。

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