第53話
「はっ。奴隷は奴隷だろうが。俺ら奴隷じゃない者のために働くのが奴隷の役目だろう?人間?ああ、確かに人間かもしれないが、同じじゃない」
何を言っているのか、理解できません。
いいえ、いいえ、もしかすると、目の前の冒険者も私が言っていることが理解できないのかもしれません。
この世界の常識、倫理観……当たり前だと思われていること、それを覆すなんて……。
ふと、ダタズさんの奥さんの顔が浮かんだ。
「解放奴隷……」
そういっていた。
ああ、そうだ。
「奴隷はいつまでも奴隷じゃない。解放奴隷がいるでしょう?解放されれば奴隷じゃなくなる。奴隷じゃなくなったあと……、あなたの認める”同じ”になったときに」
バーヌが私の後ろに立ったのを感じます。
「バーヌは忘れない。ひどいことをした人たちのことを。……ボクは、いつまでもバーヌを奴隷ではいさせないよ?」
冒険者がガタガタと震えだしました。
奴隷がいつか復讐するなんて考えたこともなかったのでしょうか。
「おい、いい加減にしろよ。こんなところで言い争ってる場合じゃないだろう」
「そうだぞ。それに上級の冒険者が戦っている場に、素人の奴隷が現れても迷惑なだけだぞ。もうちょっと考えろ」
他に二人の冒険者が、男の肩を叩きました。
「これを運べばいいのか?」
大きな鍋を、二人がかりで運び、焼いた肉や揚げたフライを大皿に盛って運んでいきます。
まだ加工していない肉類はどうしようかちらりと見ます。
出張ギルドは、戦争のようなあわただしさです。
いえ、モンスターとの戦争の真っ最中ですね。
「ダンジョン内で戦闘の際に負った怪我人の治療には、ギルドからポーションを無料支給します。早急に傷を治して、ダンジョンに戻っていただきます」
フィーネさんが怪我人と、怪我人を運んできた人たちに説明している。
「効果上のポーションと中のポーションをすぐ使用できるように、並べて。ダンジョン産で買い取った物で、足りないようなら、ダンジョンに入っていないC級以下の冒険者が持っていないか聞いて、購入価格に2割上乗せしてギルドが買い取ると言いなさい」
次々と指示を飛ばしていました。
肩を怪我したのでしょうかか。右肩から背中にかけて服にべっとり血の付いた長髪の男が、ポーションを飲み干してから立ち上がります。
剣を手に取ると、ダンジョンのを向いて歩き出しました。私のすぐ横を通り過ぎるときに、ふらりとふらついて、とすんと、長髪の男が私にぶつかりました。
「すまない」
「あの、大丈夫ですか?まだ怪我が……」
「いいや。すっかりふさがったさ。ちょっと血が足りなくってふらつくがな」
長髪の男の服を見る。本当に服にべっとりと血がついていて……ぽたぽたと流れ落ちた血の跡も見える。どれくらい血を流したのだろう。
「もう少し休んだ方が……」
「大丈夫だ、坊主。これでも俺はA級冒険者だ。血が足りないくらいどってことないさ。仲間が、待ってる……」
って、長髪の男は血で汚れていないほうの手で私の頭をなでてから、再び歩き出しました。
とても、大丈夫だっていう足取りには見えません。
「仲間……」
ぼそりとバーヌがつぶやくのが聞こえました。
「ま、待って!」
男を呼び止めます。
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