02.回避できない強制イベント
わたしの前世では、白雪姫はとてもとても有名な物語だった。
黒髪。血の繋がらない親に虐められていた幼少期。森に捨てられ七人の妖精的な人たちのお世話になる。極めつけは、義理の親がお年寄りに変装して毒リンゴを食べさせる──ここでは毒薬だったようだけど。ほぼほぼ白雪姫だ。
あー、ここに来ちゃったか。しかも、逆パターンって。今まで自分が王子的ポジションだって疑ったことなんてなかった。
てっきり、ありがちな異世界に転生したのだと思っていた。生活様式はよくある都合のいい中世ヨーロッパ的なもので、みんな大なり小なりの魔法が使える世界。
わたしは転生──生まれてすぐに『アイギスローズ王女殿下は、たいへん優れた大魔法使いになれる魔力を秘めておられます』と、大神官長さまから太鼓判をもらった。
そんなわたしは十人兄姉の末子で生母の身分は低い。王位継承のお鉢が回ってこない王女で、政治戦略的な駒にならないお荷物だと、ミルクを飲みながら将来を考えた。
──異世界転生したんだし、好きに生きよう。
五歳の時に有名な大魔法使いに弟子入りをして、またたく間に魔法を極めてしまった。ついでに、国で最強の剣士に弟子入りをして剣を学び、十二の初陣からいくつかの戦場を駆け、瑞獣を狩り駆けていた。
そして現在、わたしアイギスローズは花も恥じらう二十三歳。
昨年、いろいろ諦めた両親から魔法剣士を名乗るのを許され、兄たちを差し置いて小さな城を与えられた。
強すぎて嫁のもらい手がないので、ここらへんでおとなしく国土を守る礎になれと、暗に言われたのだ。
狩りだの戦場だのにガンガン行きすぎたのも原因だったみたい。前世はひ弱な一般的な陰キャだったから、強くなるのが純粋に楽しかったんだよね。
こうして周辺国随一の魔法剣士になってしまった。そりゃ、嫁のもらい手もないわ。あっはっは。
竜や瑞獣を捕えて調教する、難攻不落の魔法剣士王女・アイギスローズの肖像画は、とても勇ましく描かれていた。ほぼほぼ男じゃねーか、みたいな感じで。
わたしもそれならそれでいいやと開き直り、最強の男装城主になるのも悪くないと思い至った。
が、違った。
最強になり、嫁のもらい手がなくなったのは、白雪姫の逆パターンの王子ポジションの壮大な前フリだったのだ。
ちょっとガッカリだなぁ。俺Tueeしたかったのに肩透かしだ。
「剣士さま。どうか白雪王子にお花をあげてくれませんか?」
リーダーがわたしに決定的なひと言を向けた。
あー。これは、キスしなきゃいけないパターンだわ。
やだなぁ。死人というか、仮死状態の見知らぬ人にキスするのやだなぁ。ゾンビ(仮)でしょ。ほんとにやだなぁ。見知らぬほぼ死んでる人とキス。イヤしかないよ。拒絶しかないよ。
魔法の世界におけるキスは他者の魂に触れる行為だから、魂に防御魔法をかけないと。あ、キスする前提になってる。正気に戻って、わたし。強制イベントを回避するにはどうしたらいい?
いやだよー。見知らぬほぼ死体にキスするのヤダよー。
強引に青いバラを握らされて、棺の蓋も開けられてしまった。
そして、そぉっと覗いて驚いた。
「──え? 美形すぎる」
白雪王子は美形だった。
白雪姫の逆パターンだしね。それはそうか。説明がいらないくらいの黒髪の美形。七人の美女妖精に育てられたからだろうか、ひょっとするとわたしよりも肌がキメ細やかだ。
寝ているように見える白雪王子の美貌をぽけーと見ていたわたしに焦れたのか、リーダーにドーンと背中を押されて、今生での初めてのキスを見知らぬ人に捧げてしまった!
白雪姫の逆パターンだから、キスするのは確定なんだけど。魂に防御魔法をかける前にキスしてしまった。
すると、白雪王子はキラキラとした神秘の光の粒子に囲まれて、無事蘇生。
この蘇生の魔法式を冷静に理解したわたしは、またひとつ高等魔法を身につけた。本日も最強更新。
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