第6話 ブサイクな愛猫
「年頃の娘の部屋へ堂々と夜這いする息子を持った覚えはない!」
朝の爽やかな目覚めの代わりに、ドスのきいた重低音が部屋にこだました。と、同時に何か重たいものが階段を転がり落ちる音がした。
アリィに宛がわれた部屋は二階にあり、階段に程近い。扉を開けて放り投げられれば簡単に階段を転がる寸法だ。
「いってぇ! 朝からなんだよ、クソ親父っ」
「お前がアリィの部屋で寝こけているからだろうがあっ。義妹とはいえ、女の寝間着姿をまじまじ眺めるような変態に育てた覚えはない!」
「はぁ? 単に義兄妹の盃を交わしてただけだろうがっ。何勝手にいかがわしい想像してんだよ」
階段から落ちたはずだが、元気に叫んでいるミリアルドだ。信じられないほどに頑強だ。さすが最年少で聖騎士になっただけはある。いや冷静に考えれば関係はないのだが、思わず感心してしまった。しかし、盃を交わす間もなく飲み干したの貴方ですからとは言えなかった。
「おはようございます、親父様。早速、パンを捏ねてもよろしいですか?」
「きちんと室温と天気を確認するんだぞ」
むすっとした顔をしたまま、バルカスがぼそりと告げる。
店に出すパンは彼が作るが、食卓に並ぶパンはアリィが焼く。夕食はその日に売れ残ったパンを食べることが多いが、朝と昼は自分が焼いたパンだ。まだまだお店のレベルには及ばないが、アリィらしい優しい味わいだと認めてもらっている。
窓の外はうっすらと夜が明け始めた頃だろう。今から作れば朝ご飯に間に合う。
小麦に混ぜる水の量は、天気と温度によって変えるべしと最初に教えられた。ついでにこね方もかえなければならない。
しかし先ほどまで熱く息子と言い合いしていた空気を微塵も感じさせない平常運転のバルカスだ。
素晴らしすぎて、見倣いたい。きっと泰然自若とは彼のことを言うに違いない。いや、違うか。自分は少し寝ぼけているのかもしれない。いや、単に展開が速すぎてついていけないだけか。
しゃっきりしないと水の配分を間違えそうだ。
「わかりました。モモ、着替えたら朝ご飯の準備をしてきますね」
ベッドの端で丸くなっていた愛猫に声をかければ、階段の下にいたミリアルドが目を見はった。
「昨日から気になってたんだが、そのブサイクな猫はモモっていうのか?」
「あ、ブサイクは禁句です」
『なんと失礼なっ。わらわのどこがブサイクじゃと?!』
モモは地獄耳だ。すとっとベッドから降りた途端、物凄い勢いで部屋の外へと飛び出す。なぁーうっと怒りの咆哮をあげ階段の上から飛び降りたモモが、ミリアルドの顔に華麗に着地を決めた。爪を立てたまま。
「ぎぃやあああっっ」
ミリアルドの雄叫びに、小鳥たちが枝から一斉に飛び立つ音が重なるのだった。
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