その143 開発者の安全管理
「むしろ性善説の具現化よ私は~!」
「性善説は『生まれた時は善だが生きていくうちに人の悪を覚える』という意味で性悪説は『生まれた時は悪だが生きていくうちの社会の善を覚える』という意味だと吾輩は思っているが、いやいや、そんなことはどうでもよい。そこの小さな女子と目付きの悪い男子、お前たちに吾輩は興味がある」
クロウムさんは基本的に話が長い性質のようで、歌い上げるように持論を語ると、満足したかのように途中で話を切り上げ、こちらに話を振って来る。
ま、まだ状況についていけてないのに話を持ってこないでください!
「わ、私たちですか?」
「そう、魔力の流れで分かるぞ……我が愛しのメーリアン家だな?」
「あっ、えっと、はい! ラウラ・メーリアンです!」
「……ジョセフ・メーリアン」
咄嗟に応えてしまったけれど、け、軽率だったかな?
でも、私、イケボには逆らえない人だから……!
特にバリトンにはバリ弱い……!
「ほほう! 良いではないか! 特に女子の方、ラウラ、お前は面白い」
「ふぇい!?」
「昨今のメーリアン家はつまらぬ奴が多かったが、ラウラには吾輩と似たものを感じるぞ」
「似ている部分を探す方が大変ではないでしょうか!?」
話によるとむしろお兄様に似ているのではありませんでしたっけ?
というか、久々におもしれー女パターンが発動してしまった!
しかも先祖相手に!
「はいはい、お話はここまでよ~、さっさと封印閉じちゃうからね~」
ニムエさんはどこまでも無慈悲である。
もうなんかいっそ流石だった!
「待て待て、せっかく吾輩と話す機会を得たと言うのに、そんな態度で良いのか?」
「何か言いたいならはっきり言ってちょうだいね~、子供だから難しい話は分からないの~」
「では提言して進ぜよう。ラウラ、お前には『真実の魔法』がかかっているな?」
「あっ、はい! バリバリかかっています!」
魔力の流れを見ただけで、その人にかけられた魔法まで分かることにまず驚くけれど、続く言葉はそれ以上に驚きだった。
「分かるぞ、吾輩には解き方が」
「吾輩に
「誰だそれは! お前にかけられた魔法を解除する方法、それを知っていると言っている!」
混乱の「あまり加太画さん……? なんかいっぱい描くみたいな意味合いがあって、漫画家にいそうなペンネームだけど……」とか思っていたら盛大にツッコまれてしまった!
そうだよね……イルト・イッテール(2021年~2100年)だよね!
「ラウラ様、漏れ聞こえていますが、イルトさんでもないと思います!」
「えっ、じゃあ本当に『真実の魔法』が解けるって言っているの!?」
とても信じられないのだけど、本当にそう言っていたらしい。
こ、これまで記憶を失ってようやく消していたものがそんなあっさりと!?
「吾輩を誰だと思っている。『真実の魔法』を生み出したのは吾輩だぞ! その魔法に対する一定の保険、解決策も持っているのは当然だろう! ……いや、正確にはナタがその基礎となる魔法を作り吾輩がそこから顧客に向けて改造した形だから、純粋に吾輩が生み出したと言うのには間違いがあるかもしれないが、しかし、世のあらゆる商品がそうであるように完全にオリジナルなものなどないわけで、そこに独自性を加えることこそが開発の神髄と呼べるのではにゃいかと吾輩は思う!」
「最後ちょっと噛んでませんか?」
「噛んでにゃい!!!!!」
「噛んでにゃいのですか」
とにかく長話が好きな人らしいけれど、それに応えるほどの舌の滑らかさは持っていないらしく、盛大に噛んでいた。
くっ、この人……思いの外あざとい!
巨悪候補なのに!
「それで~、解き方って何なのよ~」
「吾輩の血族にこの魔法がかけられてしまったのは何とも因果な話で解いてやりたいのはやまやまだが……そう易々と教えるわけがあるまい! 商売は常にギブアンドテイク! ウィンウィンの関係を表面上は目指すものだ!」
「交渉しようってのね~、くっそ~……ムカつくわ」
ここにきて『真実の魔法』の解き方なんて言う超重大情報が転がり込んできてしまったが、しかし、当然その情報の代わりにクロウムさんが求めるのは己の自由だろう。
そしてその自由は間違いなくこの世の破滅に繋がる……!
どうしてすぐに世界か私かの二択を迫ってくるのでしょうか!? そんなの一回でもお腹いっぱいですからー!
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