その113 張り切り過ぎ

「ただ、せっかく元通りにしたグラウンドがもう一度ぐちゃぐちゃになると儂の心が折れる!」

「ごもっともな意見ですね……」

「じゃから、儂が結界を張るからその中でバトってくれ」

「結界を張る!?」

「結界もタイマンも張るものじゃよ!」

「きょ、共通点がある……!」


 結界と言うときめきメキメキワードに思わず驚いてしまうが、確かにもう一度グラウンドを破壊していては、今度はナタ……ナナっさんの心が壊れかねない。

 そもそも戦いたくないのはさておき、タイマン張るなら結界張るのも自然なことと言えた。

 な、なんだかどんどん戦いの場が整っていき、陣を張る勢いなのだけど、ここから逃げを張ることは可能だろうか……。

 

 いや、学院長まで来てしまっては、もはや戦いは避けられない……!

 こうなると、私も気を張っていくしかないだろう。

 それが虚勢を張ることだとしても!


「分かりました! 私も自分を知る必要はありますし、声は張れませんが、タイマンは張りましょう!」

「そこそこ張ってるけどな、声」

「よし、グラウンドに結界張るからそこに移動じゃ! 切った張ったの大立ち回りを期待しておるぞ!」

「結局グラウンドなのかよ」


 私はもはやヤケクソ気味に胸を張って、或いは見栄を張って、このタイマンを受け入れることにした。

 実際、どの程度魔法が使えるのかは知っておかなければならないし、大魔法使いのナナっさんがいれば大きな危険もない……はず!

 多分! きっと! メイビー!

 こうして私は本日二度目のグラウンドへ張り切って急ぐのだった。

 


 ★



 ナナっさんの手により無事結界も張られ、今朝整えられたばかりのグラウンドに立つ私とグレン。

 二人の間には張り詰めたような空気が漂っていた。

 覚悟を決めたとはいえまだ気は重く、地面に根を張ったように私の足は固まってしまっている。

 体も強張ってしまい、筋肉が張って仕方ない。

 こんな調子で大丈夫だろうか……張り張りして胃が、いや、ハラハラして胃が痛いなぁ。

 

 ──って、さっきから張り張り言い過ぎだ私!

 グレンに張り合う内に、脳が張るに支配されてしまったのかもしれない。

 アホなことしてる場合じゃないんだから!


 気を取り直すために、私は平手で自分の頬を張る。

 よし、横ではナナっさんが見張ってくれているんだし、気張らず気楽にやろう。

 ……あれ!? な、なんか張るから逃げられない!

 まるで居場所を尾行し、張られているかのように!

 こんな汎用性のある言葉だったの!?


「この結界内は儂の支配下にあるので、危なくなったら全ての魔法をかき消すことが出来る。遠慮なく戦うがよいぞ」

「ナナ……さんは本当に凄いですね!」

「ちゃんとナナっさんと呼ばんか」

「つが重要なんですね……」

「学院長の言う通り、遠慮なんてするなよラウラ! お前に負ける俺じゃねぇ!」


 グレンは腕をグルグルと回して臨戦態勢ばっちりな雰囲気だが、私は頭の中がグルグルと回って休戦態勢ばっちりな雰囲気である。

 果たしてこれで本当に戦いになるのか、不安しかないのだけど、もはや逃げるわけにもいかない。

 

「ど、どれくらい遠慮ない感じがいいですか? この戦いに勝ったらパン買ってこい、お前の奢りでな──くらいの遠慮のなさで大丈夫です!?」

「いくらなんでも遠慮がなさすぎるだろ! でも、それくらいの勢いで来い!」

「わ、分かりました!」


 両手を広げてかかってこいアピールをするグレン。

 その表情は自信に満ち溢れており、負ける気など微塵もない強気な顔をしていた。

 そんな彼とこうして向き合って感じる安心感たるや凄まじいものがあった。


 ワイルドだが優しい彼には、全力でぶつかっても全て受け止めてくれそうな包容力が感じらて仕方ないのだ。

 こ、これなら怪獣と化した私も止めてくれそうかも!

 よーし、全力で行こう!


「それでは決闘開始ィー!」

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