第50話

ヴィオラは馬車に揺られながら、窓の外を眺めていた。このまま行けば、王都へ着いてしまう。それはそうだろう。王都を目指して向かっているのだから……とつまらい事を考えていた。


正直不安しかない。いくら歩ける様になったとしても、レナードが自分を選んでくれるとは思わないし。

それに、レナードは……記憶を失くしていたヴィオラに嘘を教え込んだ。そして、家族を。何だか、本当にレナードに会いたいのか自分でも、分からなくなる。



「ねぇ、デラ」


ヴィオラは向かい側に座っているデラに話しかけた。


「はい、どうなさいましたか」


「テオドール様は、今頃どうしてるかしら……」


もう何度目か分からないヴィオラの言葉に、デラは眉を寄せた。ヴィオラは馬車に乗ってから、口にするのはテオドールの事ばかりだった。


「どうでしょうか……」


デラがそんな事を知る由もないのは、ヴィオラには分かっている。だが、つい口に出してしまう。


「テオドール様……」


結局彼がなのか、分からなかった。


ミシェルの時もそうだ。聞いておけば良かったと……後悔している。


聞こうと思った事もあった。だが、怖かった。もし聞いたら、テオドールが自分の前からいなくなるのではないかと。だから、最後まで聞けなかった。

まあ、どの道テオドールは、いなくなってしまったのだが。


また、同じ後悔を私は繰り返している。


自分の莫迦さに、ただ笑うしかない。もう、テオドールには会えない。会いたくなっても、何処の誰だか分からない人に会いになどいける筈がない。


私は、レナード様が好きな筈なのにどうして?……今直ぐにテオドール様に、こんなにも、会いたいの……。


もう直ぐ王都に着いてしまう。レナードに会いに行かずに、屋敷に戻りそのまま静かに暮らそうか。まだ、屋敷が残されていればだが……。







王都へ到着した馬車は城へ向かい、程なくして馬車は音を立てて止まった。


ヴィオラは、窓越しに城を覗き見る。降りるべきか、立ち去るべきか……悩んでいると門番が馭者に話しかけているのが聞こえた。


それもそうだろう。このままでは、怪し過ぎる。


ヴィオラは、取り敢えず出直そうと思いデラに声を掛けようとした時だった。


扉がノックされ、開かれた。


「へ……あ、あの」


「あぁ、やはりか。レナードに会いに来たのだろう」


扉を開けたのは、いつかのレナードの友人のアランだった。


「あの、その……」


口籠るヴィオラを余所に、アランはヴィオラに手を差し出すと、馬車から半ば強制的に降ろした。しかも、そのまま抱き上げられたままでいる。


「アラン様、もう降ろして頂いて大丈夫です」


「は?いや、ダメだろう。こんな場所に降ろして置き去りになど出来るわけがない。レナードの元までは、俺で申し訳ないが運ばさせて貰う故、安心してくれ」


アランの言葉に、ヴィオラはあぁそうか、まだ誰も知らないんだよね。私が歩ける様になった事は……と思いながら苦笑する。


「アラン様、お気遣いありがとうございます。ですが、本当に大丈夫なんです。私を降ろして下さい」


アランは奇怪な顔をするが、暫し悩みヴィオラを恐る恐る下へと降ろした。そして、驚愕をする。


「まさか、立てるのか?」


1人で、支えもなく確りと立って見せるヴィオラの姿に呆気に取られている様子だ。

そしてそんなアランに、ヴィオラはにっこりと微笑み、歩いて見せた。





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