第36話
「へ……誰」
本当に誰⁈ヴィオラが思わずレナードと叫んだが、扉から入って来た人物は当たり前だが、似ても似つかない別人だ。
「あ、ごめんね。勝手に開けちゃって」
そこを、謝るんですか。ヴィオラは、ぽかんとして部屋に入ってきた少年とも青年とも言えそうな見た目の人物を眺めていた。
「い、いえ……それは、構いませんが」
いや、構うだろうと、後から思うが既に口に出した為訂正するのも気が引ける。
「座っても、いいかな?」
と言いながら既に座っている。ヤケに馴れ馴れしい。それに、どうやって屋敷に侵入したのだろうか。とても客人には見えない。怪しすぎる……。
「あ、あの、貴方は……」
不審者ですよね?なんて聞きづらい。一体なんて聞くのが正解だろうかと、ヴィオラは悩む。
「あ‼︎」
「⁈」
突然声をあげたと思ったら、不審人物は懐に手を入れた。まさか、刃物でも出すつもりでは……。急展開にヴィオラは息を呑む。もしそうなら、自力で逃げる事は無理だ。
私、死ぬのかなぁ……だめだめ!まだ死ねない!レナード様が必ず迎えに来て下さるんだから。
ヴィオラは、そう思いながらも恐怖に目を閉じる。
レナード様っ……助けて。
「はい、これ」
「へ……」
だがいつになっても衝撃は来ない。代わりに手を掴まれ、手の中に何かを置かれた。これは……。
「お土産だよ」
何故不審者が、自分にお土産……。
「これ、パート・ド・フリュイ……」
「甘いのは好きじゃない?」
何故だが、酷く懐かしい。コレを見た瞬間、熱いものが込み上げてきた。ヴィオラは震える手で、砂糖菓子を摘み口に入れた。
「甘い……っ」
ぽたり、何故か涙が出た。
そして、1度溢れた涙が抑えられない。次から次に止めどなく流れてしまう。
普通ならこんな光景を見せられたら、焦ったり、慌てたり又は慰めるなどするだろう。だが、彼は嬉しそうに笑みを浮かべている。
「良かった、気に入ってくれて」
え、ちょっと、待って⁈これって。私が砂糖菓子に感動して泣いてると思われてる⁈
その瞬間、涙は引っ込んだ。満面の笑みを浮かべこちらを見ている不信人物は、自分も砂糖菓子を摘むと口に入れた。
あ……自分も、食べるんですね。
今更だが、毒は入っていないようだ……。少し安堵した。条件反射で思わず口にしてしまったが、よくよく考えればこんな怪しげな不審人物から出された物を口にするなど怖すぎる。刃物ではなく、毒殺という手もある。まあ、自分を殺した所で何の意味も価値もないが。
ヴィオラは、自身の軽率さに反省し、次からは気をつけようと心に決めた。だが、こんな事は人生の中で2度とないとは思う。いや……前に同じような事があったような……。
「あの、貴方は一体……どうやって屋敷に侵入して……目的は、何者なんですか」
最早ヴィオラの中で、目の前の人物は客人ではなく、不審者として認定されていた。
「侵入?僕が?ハハッ。そんな事してないよ。僕は堂々と君に会いに来たんだ」
大丈夫かなぁ、この人。話が微妙に噛み合ってない。
ヴィオラは、呆れた様に不審者を見遣る。……確か周囲の反応に対してズレた発言をしたり空気を読まない人の事を……天然ボケと称して呼ぶらしい。
これが、所謂天然ボケ?
「あの、そうではなくて……貴方は誰なんですか……」
ヴィオラの言葉に不審人物は、笑みを深める。それを見たヴィオラは、不覚にもときめきを感じてしまった。
……見た目はカッコいい。なんて言うか、キラキラして顔も整っているし、全体的にスラリとしてスタイルもいい。声色も優しくて、心地よいし、それに……なんとなく懐かしく感じる……が!やはり、色々と危ない人に思える。話も噛み合わないし。所詮は不審人物だ。騙されてはいけない。
「あぁ、僕?自己紹介がまだだったね。僕の名前はテオドールだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます