第27話
「
レナードは、翌る日自室にて優雅にお茶を啜り、従者にアンナリーナについて尋ねた。
「予定通り城を抜け出し、屋敷へ向かった様です」
お茶会の後、アンナリーナは王太子を毒殺しようとした疑いで部屋に軟禁されていた。何故監禁ではなく軟禁なのかというと、まだ状況証拠のみで毒の在処が不明という事に加えもう1つは……。
アンナリーナに脱走させて、自邸へと自ら戻らせる為だ。脱走したアンナリーナは必ず両親に助けを乞う為に屋敷に戻るだろう。その後は、モルガン侯爵夫妻は可愛い娘を守る為匿うのは目に見えていた。
「そう、順調だね。後はアンナリーナを追って屋敷へ向かい、毒を屋敷内から押収するだけだ」
予め毒は屋敷内のある場所に隠してある。無論モルガン侯爵夫妻はそんな事は知る筈はない。
「さて、そろそろ向かおうか」
ここまではレナードの筋書き通りだった。だが、この後アンナリーナは予想外の行動を取る。屋敷に戻り、真っ先に向かったのは両親の元へではなくヴィオラの元だった。レナードの完全な読み違いだ。
アンナリーナの性格上、鬱憤が溜まり我慢が出来ず、それを先ずはぶつけたかったのだろう。故に自分より下に見ている弱い立場である
だが、それも未遂に終わったのだが。
レナードが屋敷に到着した時、アンナリーナは予想通りモルガン侯爵夫妻に匿われていた。
「娘は、戻っておりません!」
アンナリーナは、屋敷の地下室に潜んでいた。
「おやめ下さい!殿下!」
屋敷内をほぼ強制的に捜索をし、予定通りの場所から毒を押収した。
そして、レナードはヴィオラを迎えに部屋まで行ったのだが、どうも様子がおかしい。中へ入った瞬間風を感じた。バルコニーへ続く窓は開け放たれ誰もいない。嫌な感じがしてレナードは、急いでバルコニーへと走った。
「ヴィオラっ⁈」
バルコニーの下を覗くと、ヴィオラが倒れている姿が見えた。
「レナード様?」
「あ、あぁ、ごめんね。ちょっとぼうっとしてたよ」
レナードはそう言いながらヴィオラの頭を優しく撫でる。するとヴィオラは照れた様に笑った。
まさか、ヴィオラが記憶喪失になるとは……。だが、ヴィオラの命が無事で、良かった……それだけは、不幸中の幸いだ。
目を覚ましたヴィオラは、記憶を失くしていた。
「あの、どなたですか……」
レナードの事も、デラの事も、自分の事すら分からない。日常生活に支障はないが、始めヴィオラは自分が歩けない事すら忘れており、ベッドから起き上がると当たり前のように歩こうとした。
流石のレナードも焦り、ヴィオラを止めた。その後自分が歩けないと知ったヴィオラが不憫でならなかった。見るからにショックを受けた様子で、暫く塞ぎ込んでしまった……。
それから、レナードは毎日屋敷に足を運んでは、以前の様にヴィオラと一緒の時間を過ごすようにした。その内にヴィオラはレナードに心を許すようになり今ではレナードにべったりだ。
そして、ふた月経った今レナード達が向かっている先は、郊外にある小さな町だ。
色々と騒ぎを起こしたという理由でレナードは国王であり父であるマティアスから、暫く郊外へ赴き、頭を冷やすようにと命じられた。まあ、これが初めてという訳ではないので、いつもの事なのだが。
レナードはヴィオラを、半ば強制的に連れて来た。その際、絶対に反対しそうなデラは意外にも何も言わなかった。
その事に関してレナードは特に気に留める事はない。その理由は……。
「レナード様!あれが、町ですか?」
ヴィオラは窓の外を指差し子供の様にはしゃぐその姿に、レナードは笑みを浮かべた。
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