第14話 日常復帰は嵐の前触れ……?

「ポテト頼んでいいですか?」

「……アンタさぁ」


 暫く時間が経って、折角なので、妄想を叶えることにした。

 空気を変えるって意味でも。


「だって、友達とファミレスですよ? ポテトですよね?」

「いや、意味わかんないし」

「ソースどれにしますか?」

「何でもいい」

「じゃあ、やっぱりマヨネーズとケチャップですよね!」

「なんだかなぁ……」


 店員さんを呼ぼうと、ベルを鳴らす。

 そこで気づく。

 なんか見られてる!!!

 そりゃ、泣いてましたもんね!!


「……むねかしてあげよっか?」

「勘弁してください……」



+++



「ねえ、あと一つだけ、聞いてもいい?」


 ファミレスから出てすぐに、凜果さんが真剣な表情で言った。

 あと一つだけで済むのか、と言える状況ではない。


「ど、どうぞ……?」


 凜果さんは、自分の胸に手を置いて、深呼吸をした。

 思ったより深刻そうで、こちらも身構える。


「なんでセフレに反応しなくて、エロ本に反応するわけ?」


 !?!?!?


「いや、さっき聞けなかったし」

「あっ、あれは! ち、違うじゃないですか!」

「違うってなんだし」

「その……えぇ……?」


 あれは、牽制というか、なんというか……

 そういう、気遣いだったんじゃ……


「で?」

「え、いや……セフレは俺に関係ないですけど、エロ本は関係するじゃないですか?」


 目をそらしながら答える。

 これは、あれか?

 男友達がするって言う、エロ話か。

 これも気遣いナノカナ……?


「……それ、持ってるって言ってるようなもんじゃない?

「あっ⁉ ゆ、誘導尋問ですか⁉」

「自爆じゃん」


 さらに目を合わせづらくなった。

 いや、今の時代、エロ本自体を現物で持ってるわけじゃない。

 コンビニから消えてしまったし。

 勿論、コンビニからは去っても、我らの中には残り続けているけど、基本はやっぱり電子書籍になっている、うん。


「ひとし、やっぱ、あんたかわいいわ」

「え、いきなりなんですか……?」


 男子的にはちょっと誉め言葉としては微妙ですよ?

 それを真に受けて1回くらいならと女装して失敗する未来まで見えた。

 美少年に生まれたかったな……


「なるほど、これがぎゃっぷもえ?ってやつ」

「え、ギャップ萌えですか?」

「さちが言ってた。よくわかんなかったけど」


 さっちーさん、あんたってやつぁ……!

 そっちにも造詣が深いんですかい?


「なんつーか、弟っぽい。上いんの?」

「一人っ子です」

「あんた、結構こどもっぽいとこあるよね」

「……」


 やばい、そんな台詞を現実で聞くとは。

 おねショタっぽさがある。

 ショタが足りない……


「え、っとぉ……そろそろ、帰りましょうか?」

「ん」


 歩き出してみたものの。

 凜果さんの家なんて知らない。

 こっちの道で合ってるか、聞けばいいんだけど。


「……」

「ん?」


 それは、聞いていいものか?

 男から聞くと、セクハラになったりしない?

 普通に怖い。


「あー、ウチくる?」

「なんでですか⁉」


 掠ってはいたけど、全く違う!


「家に誰もいないし、別にいいよ?」

「良くないです!」


 余計よくない!

 そういう無防備な所は直した方がいいですよ!

 いつか怖い目に会って……これが、思春期特有の発想……?

 

「ってか、仁の敬語って素なわけ?」

「え、あー、そうです、よ?」

「ふーん?」


 素が敬語かと言われれば、はっきりは答えられない。

 家族以外は全部敬語だから、敬語が素……?

 え、そんなインテリくんみたいなことある?

 眼鏡クイッ、の人間?


「り、凜果……?」

「……」

「ゴメンナサイごめんなさい調子乗りましたゴメンナサイ」

「いや、別にいいけど。こっちも呼び捨てだし」

「こっちが限界でした……」


 いや、うん。

 駄目だ俺。

 名前呼びで緊張するのは、うん。

 きもい、と思っていた。

 でも、今なら胸を張って仲間だと言える。


「ともだち、なのに?」

「うっ……!」


 確かに。

 友達なのに、遠慮するのは嫌だ。

 親しき中にも礼儀ありとも聞くけど、黙れって感じ。

 嘘です。

 友達に遠慮するのはアレだ。

 友達(?)って感じ。


「ま、一週間くらいは待ったげる」

「い、一週間⁉」


 ほぼ一瞬じゃないですか⁉


「むりにしろとは言わないけど……」

「うっ……」

「ちょろ」


 わかってますよぉ!!

 でも、それは直せません!!



+++



「はよ!」

「いったいですよ⁉」


 肩からいい音が鳴った。


「さっちーさん……」

「どうしたのー? 寝不足ー?」


 誰かに後ろから首に手を回されると、一瞬身の危険を感じる。

 しかし、誰かが分かってしまえば、あとは背中に意識を回すしかない。


「そんな感じ、ですかね」

「はよ」

「おはようございます」


 少し眠そうな凜果さんとも朝の挨拶を交わす。

 眠そうな女子というのは、それはそれでアリ。

 でも、友達だと体調の心配に変わる。


「んー」

「いやなんで⁉」


 なに?

 肩叩くと何か出ますか⁉

 デイリーボーナス受け取れますか⁉


「ふふっ」

「なんで笑うんですか……?」

「べつに!」


 そういって、凜果さんは自分の席へ向かった。

 昨日のことは無かったことにしたのだろうか。

 無かったことにしてほしいという気持ちと、してほしくないという気持ちがある。

 でも、その後ろ姿に、妙に安心感を与えられた。


「ひっしー」

「はいっ!?」


 振り向くと、予想以上にさっちーさんの顔が近く、椅子ごと後ろにひっくり返りそうになる。


「(ありがとね)」

「……」


 そう言って、さっちーさんも去っていく。

 朝からこんなにいいことがあると、少し怖い、といつもなら思ったかもしれない。

 でも、そんなことを考えようと思わない程に満たされた気持ちだった。



+++



「おー! 誰も来なーい!」


 何故かハイテンションなさっちーさんだけど、理由は明白。

 扉に『関係者以外立ち入り禁止』の貼り紙(ノート)をしてあるから。

 発案は凜果さん、実行は安木さんと俺。

 ちなみに、字が綺麗だったので、書いたのは安木さん、貼ったのが俺。


「ま、ここまですりゃ、入ってこないっしょ」

「私も……たぶん、勇気出ないです……」


 同じく。


「っ!?」


 と思っていたら、ノック。

 凜果さんの顔を窺う。

 無視? 無視なの……?


「どうぞー!」


 さっちーさんが返事をして、しかも迎え入れる。

 いないふりは、できないか。

 扉のガラスから少しは中見えるし。


「失礼します」


 扉が開かれ、木森さんが立っていた。

 いつも通りの真面目そうな顔だったが、少し汗をかいている。

 走ってきたのか?


「あっ、あっきーじゃん。どしたのー?」

「……これ、入部届です」

「え、これ、どーしたのー?」

「? 普通に生田先生からいただきましたが……」

「きいてないんだけど」


 いえ、凜果さん。

 よく考えれば、生徒が勝手に入部の可否を判断できるわけがなかったです。

 じゃあ、なんで、俺、アニメ研究部と漫画研究会に断られたの???

 あれ、ただ勝手に言ってただけってこと?

 いつの間にか、入部を認められないほど嫌われていたと??


「木森晶子です。小野田くんの監視役として入部することになりました」

「え、俺……?」


 鈍感系主人公じゃないのに、全く思い当たるところが無い。

 監視役がつくほど何か……あ、普通にあれだ。

 友達出来たかの確認。


 凜果さん、ごめんなさい、睨まないでください。

 もう少し優しい目にしてくれません?

 友達に向ける目じゃない……


「ひとしの『おともだち』ね。ふーん?」

「はい。これからよろしくお願いします」

「よろしくー!! あっきーも入りたかったんだー!」

「いえ、だから……」


 さっちーさんが木森さんの手を握りぶんぶん振っていて、木森さんは困った顔をしている。

 これはこれで、ありな……


「(せんぱい……)」

「っ!?!?」


 椅子ごと後ずさりしてしまった。


「ご、ごめんなさい……いきなり……」

「う、だ、大丈夫……」


 耳に感触が残っているようですごい緊張するけど、元の位置に戻る。

 わざわざ小声で言ってきたということは、安木さんには秘密で話したいことがあるはずで。


「(すみません……あの女の人は……どなたですか……?)」


 はぁ……

 ループして眠りにつきたい……

 って、安木さんで変なことを考えるのはよして。


「(クラスメイトで……)」


 うっわ、めっちゃいいにおいする!?

 顔を近づけたから余計に濃く感じる。

 これは、なんの匂い……?


「(せんぱい?)」


 ごめんなさい。

 真面目に答えます。


「(く、クラス委員長をやってて……いい人だよ)」

「(いい人……)」

「(あと、えっと、ほら。安木さんと同じで、生田先生に……友達になるように……)」

「(私とおんなじ……)」

「(そ、そう)」


 よく考えると、生田先生に頼まれた人が……さっちーさん以外の全員。

 さらに顧問も生田先生。

 包囲されてる……?


「ところで、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「なにー?」

「この部活は、何を目的として、どのような活動をしているのですか?」

「えー?」


 いえ、こっち見られても知らない。

 目的……ある?

 『親睦を深めましょう』が目的といえば目的なのか?


「わっかんなーい!」

「……え」


 さっちーさんは、笑って誤魔化している。

 木森さんは笑いながら、こちらへ顔を向けた。


「小野田くん」

「は、はい……?」

「ちょっと、こちらに」

「え……えっとぉ?」

「ちょっとお話が」


 俺悪くないです。

 それに聞かれてもわかりませんよ……?

 もちろん抵抗はしないし、素直についていく。

 部室を出て、近くの階段の踊り場まで連れられて、ようやく木森さんは立ち止まった。


「小野田くん」

「は、はいっ!」

「……怒りませんよ?」


 そ、それを言って怒らないことがあるわけ……ありそう?

 木森さんからその雰囲気を全然感じられない。


「本当に少しお話が合っただけですから」

「え、えっと……そうなんですか?」

「はい。あの、少しお話が必要かと思っていて……」


 あれ、本当に怒ってない?

 少しお話って聞くと怖い。


「私達……友達ですよね?」

「っ……」


 お、おかね……?

 それは、かつあげの常套句では?

 でも……木森さんにならいいか……

 朝挨拶してもらったり、宿題写させてもらったり、話しかけてもらったり、たまにメッセージで……


「もらってください」

「いりません」

「もらってください!!」

「いりませんってば!」

「もらってくれないと、申し訳なくて……っ!」


 お友達代……っ!


「……今、私がお金を受け取るところを見られたら、困るんです」


 た、確かに……

 真面目な委員長が、実は……みたいな。


「それよりも……」

「は、はい」

「私ともお出かけしませんか?」


 

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