第383話 まよなかのでんわ

 

 

 

 録画でNHK土曜ドラマ『ひきこもり先生』を観ていたカヨさんの耳に、すっかり忘れたと思っていた遠いむかしの声が、驚くほどあざやかによみがえりました。


 ある真夜中、日付が変わるころに掛かって来た電話は、かつて次女がお世話になった保育士で、カヨさんが出てみると(当時は事務所と自宅がつづいていた)、

 

 ――おかあさん、ごめんなさい。

 

 泥酔していると思われる呂律のまわらない声で、とつぜん、そう言われました。


 脈略の通じない話をよく聞いてみると、「短大新卒でいきなり未満児の担当になったわたしは、教科書どおりの保育をしなければと、自分なりに一所懸命だったんですが、自分の子どもを持ってみて、如何に残酷なことをしたかを知りました」


 ああ、とピンと来たカヨさん、「10年も前のことをいつまでも気にしていなくていいです」と宥めて電話をきったのですが、あらためて次女に申し訳なく……。


 生来の内気で、先生(保育士)の言うことは絶対だった次女が、小さな身体を真っ直ぐにし、両手をパジャマのズボンの縫い目に添わせ、いわゆる「気をつけ」の姿勢で就寝するようになった事態には、そんな事情が隠されていたのか……。


 怖がる2歳児に平均台を歩かせたのも、教科書に書いてあったからだなんて……至らない母としての贖罪をいまも引きずっているカヨさんです。(ノД`)・゜・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る