第227話 たび

 

  

 

 内勤の友だちは、定年退職したら好きなだけ旅をしたいと熱く語っていますが、仕事時代、忙しなく旅ばかりしていた(それも、いくつの県を跨いでも必ず日帰りでなければならない事情があり)カヨさんは、もう旅をしたいとは思いません。


 深夜、豪雪の裏日本の山道を、何台もの大型トラックに挟まれながら走ったり、未明近く、吹きつける波濤がフロントガラスに凍り付く北陸の高速を飛ばしたり、いまだに怨霊の出没が伝えられる関ヶ原でとつぜんの吹雪に見舞われたり……。


 ずうっと、車を飛ばして来た感じなので、これからは住んでいる土地を大切に、マクロからミクロへ視点を移し、じっくりと腰を落ち着けて暮らしたいのです。

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