第96話 ぞくりすぺくと



 

 

 

 ――またぁ? まったくもう、いい加減にしてよね。

 

 読みかけの文芸誌をぱたんと閉じたカヨさん、ひとりで悲憤慷慨しています。

 というのも、尊敬する必要のある人の評論に見逃しがたい一節があったから。


 

 ――どんな不運な時代にも成功者は出現する。


 

 ってあんたねえ、自分は偶然のなりゆきで、いまのところ(ここ大事)順風満帆な半生を歩んでいるからって、そうでない人たちが辛苦を舐めるのは自己責任だとかって、どっかの政府の十八番に追随しようっていうんじゃないでしょうね?!


 生来や生後の"たまたま"で努力すら許されない現実、どう見てんの?!

 これで何度目? 同じような傲岸不遜を商業雑誌に易々と披露するの。


 ――読者が気づかないとでも? ばっかじゃないの?! ( `―´)ノ


 尊敬という語彙が胸の中でゴロゴロして、扱いに困っているカヨさんです。

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