第93話 そくおう




 

 

 予定外の玄関チャイムが鳴っても出ないことにしているカヨさんですが、その日はなぜか出てしまったところ、首からネームプレートを下げた青年が立っていて、


 ――壊れた家電を無料で引き取ります。


 その朝取り出した加湿器がかび臭く、10年も使っているから潮時かなと思っていたところだったので、間髪を入れず「あらま、ちょうどよかった」などと調子のいいことを言ってしまいました(特殊詐欺にかかりやすいタイプかも (^_^;) )。

 

 追って軽トラで取りに来るからと言い残して青年が去ったあと、

 

 ――いやいや、しばし待たれよ、そもじ。

 

 なぜか時代劇風に自分にツッコミを入れたカヨさん。(*‘∀‘)


 壊れてもいないのに、古いというだけで買い替えていいの? 

 第一、この加湿器は大切な人たちが贈ってくださったもの。

 その温かな気持ちを見知らぬ人に渡してしまっていいの?


 カヨさんの胸の中の良心という名の小部屋に、ぴゅーっと冷たい風が吹き渡り、真冬の川辺にそそけ立つ枯葦のような自己嫌悪を、寒々と逆撫でしていきます。

 

 ――ならぬ、ならぬ。絶対にならぬ。

 

 いったんは玄関外に出した加湿器に「粗末にしてごめんね」とあやまりながら、遅ればせながらクエン酸でフィルターの掃除にとりかかったカヨさん、何事も即応はNO、一拍置き、よく考えてから答えを出すべしと、せっかちを反省しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る