第74話 むししぐれ






 カヨさんのことをもっともよく理解してくれ、遠く離れていても手書きの分厚い手紙で励ましてくれた友人を、数年前に病気で亡くしてから、なにかあるたびに、


 ――彼女が生きていてくれたら。


 ああも相談したろう、こうもと胸の中でつぶやいてきたカヨさんですが、まさか初心者のカヨさんを句会に誘ってくださり、そのつど懇切丁寧に作句の指南をしてくださった先輩まで、あまりにも呆気なく逝ってしまわれるとは……。

 

 先輩といってもかなり年下ですし、俳壇でこれからますますの活躍が期待されていた優秀な俳人でいらしただけに、急に連絡が取れなくなり、それからわずか3日で訃報を聞かされることになった……カヨさんの衝撃と悲しみは計り知れません。


 カヨさんが彼女のレベルに達するには、これから何年かかるかわかりませんが、

 

 ――どうぞこれからも拙い後輩を見守っていてくださいませ。

 

 庭の虫時雨に濡れながら、心よりのご冥福をお祈りするカヨさんです。合掌。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る