第71話 ねっく




 

 

 最近のカヨさんは散歩中によく白鷺を見かけます。


 川の中洲で、あぜ道で、真っ白な鷺がただ1羽(複数の鷺、見たことなし)つくねんと立ち、哲学者風に考えこんでいる図には、なんとも言えぬ風情があります。


 飛び立つ瞬間がまた優美そのものでして、垂直に立てていた長い首をやおら前方に傾け始めたかと思うと、左右の翅をおもむろに広げ、ゆっくりと飛翔します。


 でも、どこと行って当てがあるわけでもないらしく、なぜ、あんなに近くに? と思うくらい、すぐそばの河原や草原に舞い下りて、沈黙の思考を続行させます。

 

 陽光の方向によっては、遠目にも意外なほど筋肉の影が見えたりする。

 その長い首の表情を見ていると、カヨさんはあのことを思い出します。


 自律神経の変調で心身が反乱を起こしたとき、ネット検索でたどり着いたのが、


 ――ストレートネック。

 

 長い間、パソコンに関わってきた身ゆえ、原因はこれにちがいない!

 うまうまと誘導され、ン万円もする矯正枕なるものをを購入しました。

 到着した品はあきらかに原価千円もしない代物でしたが、頭を乗せて簡単な運動をするだけで画期的に改善したという、ユーザーたちの声を信じることに。(汗)

 

 詐欺まがいの商法だったと気づいたのは、心療内科に通い始めてからでした。

 でも、値段が値段ですし、それでも何かの(何の?)役に立つかもしれないと取っておきましたが、見るたび自己嫌悪に陥るので、思いきって処分しました。


 ――世の中には人の弱みにつけこむ商売があるもんなんだねえ。


 すっかり快復したいまは、他人事のように感心しているカヨさんです。(笑)

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