第64話 おかみさん


 

 

 

 

 台風の大風の日、所用のあとで老舗の蕎麦屋さんに立ち寄ったカヨさん。

 ちょっと奮発して天ぷらそばをいただき、変わらぬ絶品に大満足でした。

 

 老舗といってもいささか訳ありのお店で、事情があって、ここしばらく休業していたのですが、別の場所で開店したと聞き、一刻も早く行ってみたかったのです。


 常連というほどではありませんが、年に何回か足を運んでいたのは、蕎麦打ちのご主人の腕前はもとより、観光客でいっぱいのときも席を融通してくださるなど、ほぼお一人様のカヨさんに、若い女将さんがとても親切にしてくださったから。


                 ◇

 

 少し痩せた女将さんもカヨさんを覚えていてくださったのか、相変わらず温かく接してくださり、帰りには韃靼そば茶のティバッグまで持たせてくださいました。


 ――生きていればいろいろありますが、このお店がまた大繁盛しますように。


 お店のみなさんのご多幸を祈念しつつ、これからは毎月寄らせていただこうと、友人が増えたような楽しい思いで、大風のなかの帰途に着いたカヨさんでした。

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