第32話 ごかい




 

 

 カヨさんが散歩していると、住宅の建築現場に日に焼けた中年男性がふたり。

 ひとりは地面にしゃがみこみ、ひとりは突っ立った感じで何か話しています。


 ――誤解です、誤解です、それは誤解です。


 早口で同じ言葉を繰り返したのは、棒のように立っているほうの男性でした。

 

 誤解、ねえ……。

 過去にわたしもたくさん誤解してきたし、同じくらい誤解されてもきたっけ。

 本人でなければわからないことを、100%理解せよといっても無理だしねえ。


 物思いに耽りながら歩いて行くと、痛いほど真っ青な真夏の空を背景に、花も葉も茎も、非の打ち所がない1本の向日葵が、威風堂々と太陽に胸を張っています。


 ――ずいぶん立派そうだね。あなたには弱みなんてないんだろうね。


 通りすがりにちょっと意地悪な気持ちが湧いてきましたが、いけないいけない、見かけの判断が誤解のもとなんだよね、急いで早計を打ち消したカヨさんです。

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