第20話 鴉と肉
ギスギスした街だった。何か見聞きした訳では無いが肌見で感じた。
サロンもキロも。鉄みたいに強固で冷たい外壁に囲まれた、どこか空虚で寂しい街並みは旅人を不安にさせる。まるでどこにも心が安まる場所が無さそうな街。
二人が辿り着いたのはモレザンという平野の大きな街で、街の向こうの丘には領主のものと思われる館が見えた。
どこも同じ様に見える街並みの建物は決まって白壁に赤いレンガ屋根。丸くて細長い窓が付いている。
すれ違う老婆はフードを深く被り、まるで顔を見られたく無い様だった。しかしこちらを見る目は不審に満ちている様な、睨め付ける様な。
道は石畳で綺麗に舗装されていてチリ一つ落ちて無い。誰が掃除しているのだろうかと訝しんだ。
サロンはバックパックの鴉が重かったので、キロに休みたいと言った。まだ日は暮れていなかったがら、そろそろ夕食を食べても良い頃だった。二人は陰気な住人の視線も気にせずに店を探して歩く。
丁度見つけた店は値段が手頃そうで、美味そうな肉の匂いが漂ってきていたのでそこにした。
やはり店内は他の客が居らず、これまた陰気で閑散とした雰囲気だった。
店内にはカウンターの向こうに店主が一人。初老で誰でも着ていそうな麻の服に白いエプロンを肩から下げていた。その前にテーブル席が4つ。壁にくっつけて置かれていた。
「それは何だい。ペットはお断りだよ」店主は無愛想に言った。
「こいつか。こいつは連れだよ。こいつも飯を食うんだ。構いやしないだろ?」サロンの態度に店主も面食らったのか、何も言い返さずに鍋の具合を見ていた。
サロンは鴉ごとバックパックを席に下ろし、その隣に座る。鴉はカウンターの向こうの店主をじっと見ていた。
サロンは適当に注文したが、余りにアバウトで思いの外、料理が出てきた。
「なあに。この鴉が食べるさ」最初に塩を振った生野菜や茹で野菜が出てくると、鴉はテーブルによじ登って啄もうとした。サロンがそれを小皿に移してやると、鳥みたくでは無く人間みたいに野菜をほおばり始めた。
「腹が空いていたのか。変わった鴉だなあ」その様子にキロから笑みが溢れた。
「まあ待て。次はスペアリブを頼んであるから余り食うな」サロンが鴉を制した。
「どれどれ、切り分けましょうか」キロがやってきた黄金色のスペアリブを骨から外して小さく切って鴉に手渡す。
「うむ。変わった鴉だなあ」サロンが唸った。鴉は肉には目もくれず、残った大鉢の野菜ばかりを欲しがる。
最後には大鉢ごとくれてやった。
店主がやって来て、水が入った浅い小鉢を置いた。
「その連れはこれの方が飲みやすかろう」
「ありがとうございます」キロが言った。それからサロンとキロの減ったグラスに水を足した。
「あんたら何処から来たね。この街の者では無かろう」
「えっと……」サロンがそう言いかけた時、席のすぐ側にある窓の外を馬が歩いた。安そうな甲冑を全身に着込んだ騎馬隊。三騎ほど通った後で、何かを結わえた荷台を引く馬。それはどうやら横たわった人みたいで、布をかけてはいたが分かった。人三人程の遺体だ。
サロン達はそのまた後で騎馬隊が通り、それが終わるまで無言で窓を見ていた。
何だろうか。
「またか」その時側に立っていた店主が、苦虫でも噛み潰したかの様な、何とも言えない表情を浮かべて言った。「馬鹿な事をしおって」
サロンにはその店主の様子がどこかやるせない様に見えた。
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