襲撃

「取り敢えずなにもなさそうだな」


カジノから脱出した龍と水祈は、角からこっそりBar・火月の様子を見てから、こっそりと近づいていく。


そして二人がBar・火月のドアに近づいた次の瞬間。


「ぐへぇ!」

『あ……』


扉から一人の男が吹っ飛んできて、


「ぎべっ!」

「あごっ!」

「たきゃば!」


と続けざまに三人叩き出された。


「っ!」

「あれ?お前は」


そして一番最初に叩き出された男を見ると、腕と頭に包帯を巻いた男で、コイツは確か虎白と初めて会った夜と、町を案内してた時に会った男だ。


くそっ该死!」

「あっ!」


その男は龍の顔を見ると、慌てて立ち上がり逃げ出した。他の叩き出された三人も後を追い、龍と水祈がポカンとしている間に消えてしまう。それから、


「おーい。大丈夫か?」

「あら龍君に水祈ちゃん。お帰りなさい」


と中を覗くと、火月が散らかった床を片付けながらこっちを見る。他にも知った顔が一緒に片付けていた。


「お!龍じゃねぇか!バウンサーの癖に何処ほっつき回ってたんだ?」

「別件の仕事ですよ」


大声(怒っているわけではない)で喋るのは近くで居酒屋をやっていて、この辺り一帯の顔役でもある近藤こんどうさんで、他にいる人たちもこの近所で店をやっている人たちだ。


皆一癖も二癖もある人達だが、誰かの店に何かあれば、こうして助けに来てくれる。


この町の小さな店は、そうやって協力して生きていかなければ、簡単に大きな店に飲み込まれてしまう。


「お茶だよ~!」


そこに奥から、大きなお盆に大量のお茶入りの湯呑みを乗せた虎白がやって来た。


「お!虎白ちゃんありがとな!」

「いやぁ、まさかBar・火月にこんな可愛らしい子が入るなんてなぁ。うちの店にも欲しいくらいだ」

「そうそう。こんな子がいたら毎日来たくなっちまうよ」


と笑う三人に、火月は迫力のある笑みを浮かべ、


「あら、私じゃ不足なのかしら?」

『め、滅相もありません!』


そんな火月の迫力に負けた男どもは、皆で仲良く敬礼をした。





















「ぐ~」

「すか~」

「ぴ~」


さてその日(厳密には次の日)の明け方、店の中で雑魚寝している面々を避けながら、虎白は静かに店を出る。


さっきまで皆しこたま飲んでいた。今回のように、店で騒ぎがあって皆が出動した日は、その日は営業ができないであろうその店で宴会を開くのは常だった。


そして今回も皆で大宴会で、飲みすぎた皆は店の椅子や床で眠っている。


「皆……バイバイ」


最後に少しだけ振り替えってその光景をを見ると、虎白は小さく呟き、こっそりと店を出ていく。


そして店を出て少し歩くと、


「お腹すいた……」


お腹の虫が鳴り、虎白は自分の腹を撫でた。見た目の割によく食べる虎白は、非常に燃費が悪い。


更に宴会の時も、虎白は殆ど食べ物に手をつけてなかった。それが重なり、虎白の空腹状態はかなり酷い。


すると、


「なにしてんだよ。そこの家出娘」

「え?」


後ろから声を掛けられ、虎白が振り替えると、眠そうな目をした龍が立っていた。


「ったく、朝っぱらから何かやってると思えば」

「なんで……?」


同じ部屋でガサガサとしてたら嫌でも気づく。と龍は文句を言いつつ、


「何処にいく気だ?」

「決まってない」


龍の問い掛けに、虎白は答える。それに対して龍はため息を吐き、


「言った筈だ。お前一人で動いても母親の家族には会えない。今調べてもらってるから少し待ってろ」

「ダメだよ。迷惑掛けられない」

「陳って奴に追われてるからか?」


ビクッ!と陳の名前を出した時、虎白は体を震わせた。ビンゴらしい。


少なくともこの反応は、心当たりがあるようだ。


「さっき水祈の仕事の付き合ってたらな、陳って奴に虎白渡せって言われてよ。断ったけど一体どういう知り合いなんだ?」

「……言えない」


コイツも頑固だな、と龍は頭を掻く。


「あのな虎白。虎白の引き渡しを断った時点で、もう引き返せないんだ。だからせめて事情を話してくれ。でないと動きようがな……っ!」


そう龍が言った次の瞬間、エンジン音と共に車が龍に突っ込み、梶原の時とは違い完全に油断していた龍は、そのまま大きく吹っ飛ばされ、ゴミ捨て場のゴミの山に突っ込んだ。


「リュー!」


虎白が顔面を蒼白にして叫ぶと、突っ込んだ車から陳が降りてくる。


探しましたよ我搜索过

「っ!」


虎白は降りてきた陳に驚きつつも、吹っ飛ばされた龍に駆け寄ろうとするが、その前に陳に腕を捕まれ、そのまま車に押し込まれる。


離して离开!」

行け


必死に虎白は抵抗するが、陳は意に返さずそのまま車に乗り込み、運転手に指示を出して車を出し、スマホを取り出し電話を掛け、


「ゴミを片付けておケ」


と言うと、近くで待機していた陳の部下が吹っ飛ばされた龍の元に10人ほど集まった。


こちらは中国人ではなく、日本人だった。どいつも半グレと呼ばれる類いの連中で、ルールも何もあったもんじゃない。


だがそれと同時に、金さえ払えばなんでもする。そして今回は陳から仕事として龍の遺体の片付けを頼まれていた。


あの速度の車にまともに突っ込まれたんだ。それは遺体も酷いことになってるだろう。そう誰かが笑いながらゴミ袋を一つ取ろうとすると、


「っ!」


ゴミ袋の山の中から腕が伸び、首を掴む。


必死に伸びてきた腕を叩いて抵抗するが、意味はなくそのままゴミ袋の山の中から立ち上がった龍は、持ち上げた男をそのまま地面に叩きつけた。


「いってぇ……」


ゴキッと首を鳴らし、龍はペッと血の塊を口から吐き捨てる。


「おい。陳の野郎は何処に行った?」

「はぁ?言う分けねぇだろバーカ」


そう言いつつ半グレ共は、ポケットナイフを出す。


彼等もこの街に生きる者として、九十九 龍の噂は聞いたことがある。だが、車に突っ込まれたんだ。立ち上がったとは言え、この人数差で押しきれば、殺れると踏んでいた。


「やっちまえ!」

『おぉ!』


そして全員で一気に襲い掛かろうとする中、


地面に叩きつけた奴を持ち上げるとぶん回して武器代わりにし、一番前にいた奴をそれで倒すと、武器にしてた奴を投げて二人目。そのまま別の奴にはアッパーで顎を砕き、ナイフを突き出してきた奴の腕を掴み、そのまま捻り上げて腕をへし折ると、頭突きを顔面に叩き込む。


「くそがぁ!」

「っ!」


その隙を突いて、ナイフを振り落とす奴が来たが、龍はへし折った腕を引っ張ってそれをガード。


「ぎゃああああ!」

「わ、悪い!」


勢い余って仲間をぶっ刺し、思わず狼狽してできた隙を、龍は見逃がさず相手の顔面にヤクザキック。


『おぉおおおお!』


そこに更に突っ込んでくる相手に、龍が身構えると横から、


「ハァ!」

「あがっ!」

「水祈!」


飛んできた水祈は、一人の顔面に飛び蹴りを叩き込み、続けざまにもう一人に回し蹴りで倒し、続け様に走ると更に別の相手の顎を蹴りあげる。


「ウッラァ!」


その隙に龍も別の相手との間合いを詰め、強烈なアッパーで殴り飛ばすと、続けてもう一人に渾身のボディーブロー。


そして、一人残った男は腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまう。それを見た龍は近付き、


「陳は何処に行った?」

「し、しらねぶっ!」


知らないと言う相手の顔面に蹴りを入れる。


「陳は何処に行った?」


胸ぐらを掴んで立ち上がらせると、再度問う。だが、


「し、しらなぶっ!」


知らないと言うので、パンチを一発叩き込む。


「陳は……何処に行った?」


龍の低い声音に、相手はガタガタと震え出す。


「ほ、ホントに知らないんだ。俺たちは金を渡されてあんたの始末を頼まれただけなんだ!なにも知らないんだよ!」


恐怖から股間を濡らし、必死に弁明する相手に、龍はふぅと息を吐く。


「そうか。じゃあこれ以上聞いても意味はないな」

「そ、そうそぶべっ!」


手を離してもらい、ホッとした次の瞬間、龍の拳が炸裂し、後方に吹っ飛ばされると地面を転がり、白目を剥いて気絶した。


「ちっ……手掛かりは無しか」

「そうとも言い切れないわよ?」


龍の呟きに、水祈がニヤリと笑みを浮かべる。


「なにか策でも?」

「こいつらより深く付き合ってそうな奴を一人知ってるだけよ」


水祈の言葉に龍は少し考えたが、直ぐに成程と笑みを浮かべた。


「アイツか」

「えぇ、あいつよ」

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