第16話:寺垣翼は怒られる?
僕が1人、個室でチビチビとお茶を飲んでいると、寺垣さんと美作さんが戻ってきた。
でも2人の表情は、対象的だった。
美作さんは、それはもう楽しそうな笑顔を浮べていた。
なんだったら個室に入る直前、振り返って吉良さんに手を振っていたくらいだからね。
打ち解けすぎじゃない?
え、これは美作さんのコミュ力?
それとも吉良さん?
いや、どっちもかな。
吉良さん、男が苦手って言ってたけど、女の人相手だと普通に接してるもんね。
それに美作さんだって、初対面の僕にも凄く優しくしてくれたし。
まぁ、2人が仲良くなれたみたいだし、とりあえずは良かったのかな?
それよりも問題は寺垣さん。
なんだか難しそうな顔をしてる。
やっぱり静海さん、人見知りが激しくて、上手く話せなかったのかな?
僕がそんな事を考えていると、寺垣さんが話しかけてきた。
「はぁ。なんか、怒られちまった。『初日から飲むなんて、随分と余裕ね』って」
え?静海さんそんな事言ったの!?
うわぁ、これ僕も、後で帰ったら怒られるのかなぁ。
「なぁ芦田、静海課長補佐ってどんな人なんだ?」
あ、初めて寺垣さんからまともに名前呼ばれた気がする。
うーん、どんな人、かぁ。別に怒るような人とも思えないんだけどなぁ。
「んー、どんなって言われても・・・別に普通だと思うんですけど・・・」
まぁ、飲ませてくること以外は、だけどね。
「芦田、静海課長補佐と仲良さそうだったよな?どんな手を使ったんだ?」
どんな手、って。あくどいみたいに言わないで欲しいんだけど。
「さ、さっきも言ったけど、僕、静海さ――課長補佐とは、同じアパートなんです。それで静海課長補佐、ブルーレイ機器とか、そういう機械系に弱いみたいで、時々その接続とかをお手伝いしたりはしてました」
まぁ、お手伝いっていうより、全部僕がやって、静海さんは優雅にワイン飲んでただけだけど。
「なるほど、機械系、か。どっちにしろ、そういう細かい所から信用を勝ち取っていくしかないわけか・・・」
なにやら寺垣さんは、そう言って考え込んでいました。
「とにかく、ありがとな。また何か情報あったら、すぐに教えてくれ」
そう言って、真面目な顔で、寺垣さんは僕に言いました。
その向上心?には素直に凄いと思ったけど、なんとなく偉そうだって感じた僕は、性格が悪いのかな?
「それにしても―――」
寺垣さんは、すぐに僕から視線を逸して隣の美作さんに目を向けました。
「
「そうかな?でも吉良係長、凄く優しそうな人で安心しちゃった」
美作さんが、そう笑ってグラスを手に取った。
「・・・・飲んでて、いいのかな?」
寺垣さんが言われた静海さんの言葉を気にするような美作さんの言葉に、僕達は何も言い返すことができず、結局その日はそのまま帰ることになった。
2人と別れてアパートに戻った僕は、シャワーを浴びて共有スペースで一息ついていた。
なんで自分の部屋にいないのかって?
それはね・・・
「「ただいま〜」」
あ、静海さんと吉良さんが帰ってきた。
僕は、2人を、というより静海さんを待ってたんだ。
「あ、あの、静海さん・・・」
僕は恐る恐る静海さんに話しかけた。
「あら、幸太じゃないの。どうかしたの?」
「あの・・・すみませんでした!」
そう言って僕は、静海さんに頭を下げた。
「今日の飲み会、僕が誘ったんです。同期の2人と仲良くなりたくて!だから、寺垣さんは悪くないんです!」
静海さん、ごめんなさい、僕は嘘をついてます。でも、これが一番良いと思ってるから、だから、それも許してください。
「・・・・・・・・寺垣君から聞いたのね」
少し間をおいて、静海さんが静かに言いました。
僕が顔を上げると、静海さんはなんだか悲しそうな顔をしていました。
「こ、幸太君、気にしなくていいのよ。あれは、智恵が悪かったんだから。ね、智恵!」
吉良さんが、すかさずそう言って笑っていました。
「・・・・えぇ。あれは私が大人気なかったわ。明日、寺垣君にもフォローは入れておくから、幸太は気にしなくて良いのよ」
そう言って静海さんは、僕の肩にそっと手を触れてそのまま共有スペースをあとにしました。
「・・・・・・・・」
「あっ、幸太君、2人とは仲良くなれた?星ちゃんなんて、凄く可愛くて幸太君にお似合いだと思うんだけどなぁ」
気まずい雰囲気になったのを感じたのか、吉良さんが笑ってそんな爆弾を投げてきた。
「そ、そんな!確かに綺麗な人ですけど、僕となんて・・・」
「そうかしら?お似合いだと思うんだけどなぁ。良かったら、私が応援しましょうか?同じ係だし、どうとでもできるわよ?」
吉良さん、それ職権濫用です。
っていうか吉良さん、全然『男嫌い』じゃないくらいガンガン話しかけてくるじゃないですか!
「いや、ほんと勘弁してください!」
僕は、お断りのために吉良さんに頭を下げた。
美作さんとどうにかなるとは思ってないけど、吉良さんが協力するなんて聞いたら、寺垣さんがなんて言うか、怖いよ。
「え〜、残念!せっかく、母親らしいことできると思ったのになぁ〜」
吉良さんは笑いながら、
「じゃぁ、おやすみなさい。明日から頑張ってね、息子よ!」
そう言って共有スペースを出ていった。
吉良さん、僕を息子だと認識してるんだ。
まぁ、僕が『お母さんみたい』って言っちゃったからかな。
なるほど、男じゃなくて息子と思って接してるから、普通に話せるのかもしれないな。
まぁ、もしかしたらお酒のせいもあるかもしれないけど。
僕は、そんなことを考えながら、明日に向けて早く寝るべく自分の部屋へと戻っていった。
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