【ミステリ考察】ヤクザと海賊と麻薬組織

推理小説の定番の「密室殺人」について、これは結局通常の思考と捜査ではどうやっても「自殺」「事故」という結論にしかならないという事が意外に重要ですよね。

というのも、そう断定された時点で警察は持ち前の組織力や技術力を「もう無駄だから使わない」と宣言している事に等しいからです。

おかしな話ですが、警察が時に脅しにも近い聴取をしたり、プライベートの侵害もいいところの家宅捜索をしたりといった事が容認されるのは「殺人事件」という大義名分があるからです。

それもないのにやりたい放題されたら庶民だって流石に黙ってはいません。

腐敗したサツよりも仁義を大事にするヤクザモンのほうがよっぽど頼りになるという話にさえもなる――(だから世の中にギャングや暴力団がはびこるのだと個人的には思いますが。)


どんな理由でも犯罪をすれば問答無用で逮捕だ!という立場を取るのが警察ですが、皮肉にもそういう人を「かばって守ってあげる」という一応の名目でヤクザ者のほうが頼りにされるという構図が場合によっては成立してしまうわけです。もちろん警察とてヤクザ相手に黙っているわけでもないですが、現実問題としては暴力団の幹部や親分というのは、「そう簡単には逮捕されない現実がある=拠り所として頼りになる」という構図もできてしまうわけです。そういった現実がある以上、フィクションでも一定の説得力を持つ事になるのでしょう。ヤクザ映画やヤクザ漫画がそれなりの安定した人気を獲得する事にはそういう理由もあると思います。ワ〇ピースなんかも、ある意味では「子供向け」のヤクザ漫画であると言える気もします。


本来、暴力団にしても海賊にしても「善い」ものであるはずがないのですが、その社会に「正義の腐敗」がある時には善悪の構図が崩れて混乱してくるのだと思います。


ちなみに、一般の刑事主人公のミステリでヤクザキャラが登場する時には大抵は末端のチンピラの類。しかもその単独行動によるちんけな犯罪を描写しているに過ぎないものがほとんどです。幹部とか親分を描写する事はまずないですね。


そういう意味でも、一介の殺人事件を捜査する一人の刑事キャラが事件を解決したからといって優越感に浸っているのを見ると私は違和感を覚えます。


もっと麻薬組織とかテロリストとか、相手も「組織」である場合にこそ警察の組織力というのも本当の「カッコよさ」が出るのかもしれませんね。個人相手に組織力を遣ったら、ある意味「勝って当たり前」の試合になっちゃうんですよね。一人を相手に金も人数も武器(拳銃)も使って集団でボコりに行くわけですから、「勝って当たり前」という話になります。それって、わざわざフィクション作品にして楽しい事なの?っていうふうには私は思いますね。


そういう意味でも、最近のミステリの警察の描写ってぬるいんじゃないのかっていうふうにも思いますね。組織力使うんだったら、麻薬組織とかテロリストとかヤクザの親分とか、「大物」獲りに行けば?っていうふうには思いますね。もちろん、せめてフィクションの中では、って話ですけど。


まあ、そういうのを書くのって作者としても滅茶苦茶大変だし、ジャンルとしてはミステリから外れちゃうから、「軽い」話が最近の商業小説でちょっと目立つって話だと思います。「軽い」話が多いって事は、書き手の質が全体的に劣化していて読み手もそれに慣れきってしまっているという事かと思います。嘆かわしいですね。ちょっと死体のグロ描写をしたくらいで重い話を書いた気になっている作家さんもいらっしゃいますし、読み手としては非常に残念に思っています。


ラストで優越感に浸るのであれば、1つの巨大な麻薬組織を完全に潰すとかして、もう自分の仕事としては全てやり尽くしたとでも言える状況にしてからやってくれます?って思いますね。

殺人事件の解決が大事でないと言うつもりはありませんが、小さな恨みや僅かな金や男女関係のもつれで知人を〇してしまったとか、ぶっちゃけ小さな事件ですよ。


同じ殺人事件でも、たまにはもうちょっと異常で危険なものを扱ってくれませんか?っていうふうには思いますね。連続無差別殺人とかね。

だって、そういうものこそ、警察であれ探偵であれ、何が何でもとりあえず捕まえないといけないってやつじゃないですか。相手の動機とか知ったこっちゃないですよ。どうせ無差別なんだろうから。それこそ、綺麗事じゃなくて頭も足もフルに使って何が何でもがむしゃらに捕まえないといけないってやつでしょ?でもそういう事件が、全然書かれないじゃないですか。

そういうものを書かないで、小物の事件ばかり描写してどうすんの???っていうふうには思いますね。


そういう「軽い」警察のお話しか書けないなら、女子高生が探偵だとか、町奉行がお江戸の事件を捜査するとか、そういった思いっきりフィクション全開の作品のほうがよっぽど楽しめるという話です。

フィクション丸出しで上等。推理を思いっきり楽しもう!って話です。



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