第28話「面白くない」小説から逆に考えてみる

面白い小説を考えるために、敢えていかにも面白くない設定を考えてみます。


仮想小説:「漫画家志望(無職、20代後半)の主人公が、つまらない漫画ばかり描くので同棲中の彼女にフラれるだけの小説」


漫画家志望(無職)というそこらへんにいそうな設定なうえに、だらしない性格も固有の性格というよりは「一般的によくいるだらしない人」のような没個性とでも言うべきもので、キャラの生い立ちも内面も、何一つ作品に活かされていないという意味で「面白くない」のかもしれません…。そんな男性キャラになぜ恋人がいるのか?という事も、設定だけ見ると意味不明です。(きちんと考えるなら、顔がいいとかそういう理由が何かしらあるとおもいますが。)


この場合、キャラ自体が本質的に終わっているというよりは、そのキャラを全然見てないというか、そのキャラにしかない個性を作者が全然見てあげていないという事が「長編に向かない」という事なのかもしれません。

逆に、短編ならそれでもいいのかもしれませんね。

個人的には短編自体あまり好きでないのですが、理由はそこにあると分析もできそうです…。短編であればあるほど、必然的にキャラの設定は没個性的にせざるを得ないので、それは長編を読む感覚だと直接的に「面白くない」要素になり得る。

個性のない「私・僕」「A君」「ある男・女」etc. と、一人一人固有の性質を持ったキャラクターというのは、本質的に対立するものなのかもしれませんね…。

これらの事は、(長編の)賞に入選したいなら最低限の事としてキャラの「履歴書」を作りなさいとか、面白い作品を作るにはまずは面白いキャラクターを考えてくださいといったアドバイスとも調和しているように思います。


「面白いキャラ」とは、必ずしも名前や性格や経歴が奇天烈なキャラではなく、「固有の性質がきちんと説明・描写されているキャラ」なのかもしれませんね。逆にそれらが全く欠けているキャラは、見ていて何の面白味もなく、「面白くないキャラ」という事になるのかもしれない…。


さらに考察すると、「面白いキャラを考える」という事は、作り手が「固有の性質を説明・描写できるキャラを選ぶ事」なのかもしれません。

これは、「履歴書」を作れというアドバイスと調和します。履歴書に相当するものも仮に存在し得ないようなら、それは面白いキャラになり得ないという事は、納得行くように思います。

台詞と行動描写だけでじゅうぶん「面白い」事を示すのも不可能ではないでしょうが、それは技術的に難しい事であって「基本」とは言えない可能性は高そうです。

漫画や映画の場合、ビジュアル面だけで視覚的(音声があるなら聴覚でも)なキャラの魅力を伝えれるという事もあって、キャラ設定はむしろ簡単であるほうがいいのかもしれませんね。小説だとそうはいきません。

最近の漫画で女の子キャラが「消費物」扱いになっている事や、映画でキャラクターというよりは俳優さん本人に評価が集まる事などとの関連も興味深いですね。私の友人などは、キャラクター名ではなく俳優さんの名前を使って映画のストーリーを説明したりします。尚、当然ですが個々の俳優さんには固有の経歴・ビジュアル・声・得意とする演技などがあるわけです。


単なる「おっちゃん」は、何の個性も見当たらない面白味のないキャラですが、そこに色々な要素が加わって例えば「熟練の役者・俳優」という事にもなれば「面白いキャラ」になり得ます。

そういった描写・説明が長編小説で必要になるのは間違いなさそうです。

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