第352話 12月9日(……楽しそうって、何ですか?)
期末試験の勉強に励みつつ、時折、口元へマグカップを傾ける。
しかし、
『今年は、自分から何かリクエストしてみたら?』
一息入れる度に頭の中で声がして……あまり気は休まらなかった。
◆
試験勉強が一段落したので、冷めた珈琲を淹れ直しにキッチンへ……。
ついでに、何か甘いものでも食べようと冷蔵庫のフタを開けた瞬間――、
「……忘れてた」
――以前、彼に買わせた食玩と目が合った。
(……コレ、私以外に食べる人いないよね?)
食玩の菓子要素――薄い卵型チョコレートは、チョコとは名ばかりの外箱だ。
つまり、自分で処理するしかないのだ。
「はぁ……」
口から溜息が漏れる中、つまんだチョコレート菓子をテーブルへ移動させる。
それから、瓶詰のインスタント珈琲を手元に引き寄せ――、
「……よし」
――電気ケトルのスイッチを入れてから、チョコレート菓子と見つめ合った。
「…………」
パッケージへ描かれたイラストから察するに、おまけはよく知らないマスコットキャラクターのフィギュアらしい。
どれが当たっても嬉しくないなと思いながら箱を開けた直後――、
「あれ? ちーちゃん、今休憩?」
――寝間着姿の彩弓さんが現れた。
「あ! 珈琲、私も一杯もらっていい?」
「……寝れなくなっても知りませんよ?」
「大丈夫」と言って差し出されたコップにインスタント珈琲を入れる。
その後、お湯がまだ沸いていないと気付いた彩弓さんはちゃっかり隣へ座ってきた。
「それ、ちーちゃんのだったんだ?」
「もしかして、欲しかったですか?」
チョコの包み紙を剥がしつつ訊ね返す。
だが、間髪入れずに、「まさか」と言われてしまった。
「……そうですか」
思わず肩を落とした私に、「好きで買ったんじゃないの?」と疑問符が飛んで来る。
「なんというか、不可抗力でして……」
曖昧な返答をしてからチョコを
「…………」
「美味しくないの?」
「少し甘すぎますね」
いや、だからこそ苦い飲み物とは合うかもしれない。
今から淹れる珈琲はとびきり苦くしよう。
固く決意したのと同時に、お湯が沸いた。
「さあ、彩弓さん」
まず、先に彼女のコップへお湯を注いであげようとする。
けれど、彩弓さんがにやにや笑っているのに気付いて、ぴたりと手を止めた。
「……何です?」
「別に? ただ、最近楽しそうだなって、思っただけだよ」
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