第346話 12月3日《謝らないまま、二人で……》
寒空の下、
ゴールを目前にしてスパートする体は、もう寒くなんてなかった。
けれど、
なので、軽い
「お疲れ」
声を掛けてすぐ、「そっちもお疲れ様」と涼しい顔で告げられる。
「五キロは余裕?」
「この倍でも平気」
バスケで息切れしていた頃の面影はない。
「授業でそれをやると死人が出るけどね」
冗談めかして言い、未だ走り続ける友人へ視線を向ける。
二人で見守る中、茉莉がゴールしたのは……授業の終わる直前だった。
◆
荒い呼吸を繰り返す姿に大丈夫? なんて声は掛けない。
「私、お茶取って来る」
言うなり走り出した後姿を、止める暇などなかった。
「
途切れ途切れに言われても説得力はない。
「いいから座って」
腰かけられる場所へ誘導した途端、茉莉は息を吐いて座り込んだ。
「平気だって、ほら……最後の方は歩いてたしさ」
「それ、傍から見たら限界の証だからね?」
けほけほと咳き込んで笑われても、心配が
でも――、
「それよりもう、平気?」
「……何が?」
「ちなと、二人きりでも」
――心配をかけていたのはアタシも同じだった。
◆
「今、少しいい?」
放課後、智奈美を呼び止めた。
すまし顔に滲む緊張が、今なら少しだけわかる。
そして、あたしの緊張も彼女に伝わっている筈だ。
智奈美に、好きな人がいるのは知っていた。
でも、楠が彼女を好きだと気付いたら……素直に応援できなくなった。
だって……好きな人の恋を邪魔するみたいで嫌だった。
楠の想いさえ届かなければチャンスがあるかもなんて、考えたくなかったんだ。
だからこれは、最初から八つ当たりだったんだ思う。
「あたし、楠に告白したの。四回目の告白……でも、ダメだった! 結局ね、あたしの失恋に智奈美は関係なかったんだよ」
本当はごめんと言いたい。
けど、やるせなくて……素直に謝りたくない。
だけど、それでも――、
「だから、気にしないでっ」
――友達に戻りたいなんておかしいかな?
震える唇で伝えた直後、智奈美は静かに首を振った。
「気にするなは……無理でしょ」
泣きそうな声だ。
「……気にするなは無理だよね」
「……謝ったら、怒る?」
「……怒れないよ」
不器用な友人に、そっと告げる。
「だから、謝らないで。その代わり……アタシも絶対に謝らないからさ」
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