【私と彼女を何色の糸で結べばいいのか】
第95話 3月27日(本当においしいんだけどなぁ……コレ)
「私の家にも泊っていきなさい。一週間くらい」
「……監禁じゃないですか、それ」
茉莉とお泊りしたことを話した直後、彩弓さんも『お泊りがしたい』と言い始めた。
結局、私は押し切られる形で帰って早々、彩弓さんの家へ泊まることになったのだが――、
◆
――急遽、彩弓さんが職場に召集され……お泊り会の前半はもはや留守番と化していた。
彩弓さんが帰って来たのは夕日が沈み、夜のカーテンが窓辺に降りきってからだ。
「ただいま! ちーちゃん、もう晩ご飯食べちゃった?」
「……いえ、まだですけど」
「じゃあ、お寿司でもとろっか!」
珍しく申し訳なさを感じているのか。
それとも、お泊り会にテンションがあがっているだけなのか。
彩弓さんは財布を開いて万札をチラつかせる。
さらに――、
「見て! 雛祭り用のちらし寿司! 1人前1250円だって!」
「……いつのですか、それ」
――彼女はいつからどこに置いてあったのか……三月の初めに入手したらしいチラシを見せつけて来た。
「落ち着いてください。別に、お寿司とか頼まなくても大丈夫ですから」
「じゃあ……ピザ?」
この人は、あえて出前から離れようとしていないのだろうか?
「……私、今日は彩弓さんが料理を作ってくれるものだと思ってたんですけど」
いつかした約束を私は忘れていない。
それは、彩弓さんも同じだったようで、
「うぐっ……」
この話題になった途端、彼女はきまりが悪いと言わんばかりにうめいた。
「……そんなに嫌なんですか?」
「そういう訳じゃないんだけどぉ」
彩弓さんは顔を背けたまま、ずるずるとその場にしゃがみ込んでしまう。
スーツ姿のままダンゴムシみたいに丸くなっていく成人女性を見て、思わずあきれてしまった。
けれど、なんだかそんな彼女を放っても置けなくて、
「……私、今日は彩弓さんのご飯を楽しみにしてきたんですけど?」
柔らかい声でそう聴かせる。
すると、
「……カレーでも、良い?」
彩弓さんはようやく決心してくれたようだった。
そして、この日の夕飯はハヤシライスになった。
◆
「はぁ……これなら、まだ砂糖と塩を間違えた方が良かったかもしれない」
彩弓さんはスプーンにすくったルゥを見て溜息を吐く。
「なんでですか。美味しいですよ、
「だって、料理ができないことよりもお遣いできない方がカッコ悪いでしょ……」
落ち込む彼女を慰める言葉は見つからない。
でも、今は慰めの言葉なんて必要ない気がした。
「でも、美味しいですよ?
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