06

 彼が、机の上に座って、ラップトップを開く。

 その背中に、てのひらを押し当てる。


「セックスはしないぞ」


「違うよ」


 単純に、不安だった。

 仕事をしたくなかったのも、彼がこうやって、電子の海に入り込む可能性があったからで。実際、これから彼はラップトップを開く。


「アクセラ。どこから探すの?」


「まずは駅前の機械から。監視カメラ回りは整備されてるし、発電所絡みはエレクトリッカーがいる。そういうのじゃなくて、もっと単純な、店先にいるロボットみたいなやつからかな」


「そっか」


 彼のことを、見つめる。


 彼は。


 病院でたまたま生まれた存在だった。移植用の臓器を作り出すプリンター。それがなぜか、勝手に動いて、彼を作り出した。


 彼の問いは、自分は誰か、ではない。何が自分か、だった。自分が人であることすら、彼は疑っている。


「アセロラ。好きだったよね」


「うん。まだ見つからないけど」


 彼は、名前を訊かれたときアセロラと打とうとして、打ち間違えている。それで、アクセラ。


「教えてあげよっか」


「何を?」


「アセロラはね。野菜じゃなくて、フルーツよ」


 彼。

 ラップトップを手繰る手が止まる。


「知ってるけど」


「え?」


「チェイン。野菜コーナーと果物コーナーは同じところにあるんだよ」


「あ。そなの」


「アセロラは売ってなかったけどね」


 彼。ラップトップを閉じる。


「さあ。見つかったよ。駅前の警備機械だ。狐が入り込んでいる。行って、壊してきてくれ」


「わかった」


 彼が無事で、安心している。

 自分のセックスしたい欲望よりも。彼が生きていることそのものに、心から、ほっとしていた。


「ラップトップで見とけよ。さくっと終わらせてやる」


「帰りにコンビニでおにぎり買ってきてよ」


「おにぎり?」

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