【終わりよければすべてよし】をテーマにした小説

その男はベランダ、ラウンジ、或いはロフト……兎も角、そういった場所に座って眼下の光景を眺めていた。


「いい眺めだね。そうは思わないかい?」

「――――別に。お前とは趣味が合わんからな」


話し相手は一人の女。いかにも「お前の相手はしたくない」といった顔で、同じように眼下を眺める。


「いやいや、心外だなぁ。君ならわかってくれると確信して声をかけたのに。だって僕たち、でしょう?」

「チッ……アタシはお前のような趣味の悪い楽しみ方はしないんだよ」

「ならまぁ、そういうことにしておこう」


2人の間に挟まれているのは将棋盤、或いはチェス台、またの名をカタン島。コツコツと音を立てながら、そしてこのような他愛もない会話をしながらここで過ごしている。


王手チェック。さて、返す手はあるかな?」

「煽るのも大概にしておけ」


男の一手、返しに女の一手。

それはただの窮地の演出、逆転の保証された物語の中盤。つまるところの茶番劇。

遊戯ゲームでやれば興醒めの一手。やるからには本気で挑まずして何が楽しいのかと、胡乱げに見る女の目が問うていた。


「で、これの条件は終わりよければべてよし、だったか」

「そうそう、その通り。なんであれ、終わりをいい感じに纏めたら、アレはキミのもの、或いは僕のものだ」


男が指さしたのは、やはり眼下の光景そのものだった。


「とんだ言葉遊びだ、本当に趣味が悪い」

「フフフ。そう褒めても何も出ないぞ?」

「褒めていない」


盤上遊戯は即ち模倣。転じて現実の転写であり、よってこれは現実そのものである。

それは神の呪術、もしくは因果の反転。最早、鶏と卵の区別が付けられる者などここにはおるまい。


「誰だって欲しがるのは大団円、ならその一番の功労者には然るべき報酬が払われるべきだろう? 勇者が魔王に転じても、誰も幸せになんてならないのさ。はつまり、

「報酬が大団円となった者すべて、であるから趣味が悪いんだ。それでは魔王と大して変わらん、とっとと天に召されるが吉だ」


不機嫌そうに駒を撃つ女。上機嫌に笑う男。


――――ああ、わかっている。コイツはをアタシに押し付ける気だ。


物語はいつしか終わる。語られるべきは位置エネルギーが如く、落ちてしまえば自力で上がれない。

停滞した終わった世界を統べたところで、果たして何ができようか。いや、きっとなんだってできる。男と女はそういうものだ。

だから仕掛けた遊戯の終わりで、これはきっと女のものになる。なんだってできるならば、一体何をしてくれようか。


「つまらん。本当にお前とは趣味が合わない」

「いやぁ? 僕は君の趣味も好きだけどなぁ」

「だったら合わせる努力のひとつでもしてから言ってくれ」

「そしたら僕の欲しい結果は得られない」

「ったく……」


盤上はいよいよ手を打つべきも少なくなって、仕方がないので女は男の策に嵌るしかなくなっていた。


「――――おめでとう、勇者よ。君には私の娘と領地をやろう」

「やめろ。私はお前の思う通りになんてされないからな」

「フフフ。面白いものを期待しているよ?」

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