1時間ライティングバトル
否定論理和
お題「目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた」から始まる小説
「目の前に、ありえない姿の死体が転がっていた。理由はわからないけどそれはきっと僕でなければできない殺し方で、だからきっと殺人犯は僕でしかありえないのです」
「……で、他には?」
「他にも何も、それが全てですよ。」
刈り上げ頭の刑事、新庄は苛立っていた。その理由は明らかで、目の前にいる連続殺人事件の容疑者が一向に有力な証言をしてくれないことであった。
事の始まりは1か月前、公園に寝泊まりしているホームレスの男が殺害されて以来立て続けに同じ手口で4人、合わせて5人もの人間が殺害された。警察は一向に犯人の所在を掴むことがいたが、つい2日前近隣の大学に通う男が自首してきたのだ。当初はこれで事件が収束すると思われていたものの、少年の証言はなんら容量を得るものではなく結果として未だに解決の兆しは見えないでいた。
「今時よォ、犯人捕まえて口割らせてハイ終わりって時代じゃねぇのよ。自首してきてくれたのは嬉しいけど殺害方法とか犯行時間とか、そういうのがわかんねぇとあんたを……ええと」
「八重樫です」
「そうそう八重樫さん、あんたをそのまま刑務所に送るわけにもいかないんだ」
苛立つ新庄を気にすることもなく、八重樫は困惑した表情を浮かべながら問いかける。
「ですが、僕にしか殺せない方法で僕が殺したとしか思えない場所に死体が出てきたのですよ?ならば犯人は僕ということになるでしょう」
「だぁーかぁーらぁー!別にあんたにしか殺せないってわけじゃないんだよ!」
新庄は語気を一層強める。連続殺人の犠牲者はみな路地裏や物陰などの人目に付きにくい場所に放置されており、心臓にナイフを突き立てられていた。実行するかを抜きにすれば誰にでもできる殺し方で、誰が殺したとしても遺棄できる場所だ。おまけに八重樫は5件の殺人のうち2件に関しては死亡推定時刻に完璧なアリバイが存在する。
「なにか?あんたは超能力を使って殺人を行ったとでもいうつもりか?」
「ああ、それいいですね」
新庄は、相変わらずぼんやりとした口調で返す八重樫を見てため息を吐く。既に八重樫のことを虚言癖、或いは事件に乗じて目立とうとした愉快犯でしかないと結論付けようとしていた。
「とりあえず、さ。このまま有力な証言を得られないと証拠不十分でそのまま帰すことになるんだ。あんたがやったって言うならその証拠をもうちょっとだな」
新庄が都合何度目になるかわからない苦言をぶつけると、八重樫は今更になってからハッとした表情を浮かべる
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってください、僕、このまま帰されるんですか?逮捕されないんですか?」
「それ、昨日から何度も言ってるんだけどなぁ……」
「それはダメです!それだけはダメなんです!お願いです!早く僕を逮捕してください!」
態度を急変させた八重樫を見て、新庄は益々困惑した。おかしい、何故この男はここまで逮捕されたがっているのだろうか?単に情緒不安定なだけで片付けるには妙に真に迫った恐ろしさがある。目を閉じて思索するもその場ではすぐに答えは出ない。
「とりあえず、一旦帰ってもらってあとは重要参考人ってことで」
新庄が話を打ち切ろうとしたその時
「ダメなんです、ダメ、ダメ、ダメなんですよ、だめ、ダメ、だめ……あっ」
遠くで音が聞こえる。悲鳴、サイレン、爆発、悲鳴、悲鳴、そして悲鳴。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
警察署のあちこちからあわただしい声が聞こえる。連絡用の携帯電話が鳴りだしている。何に対してかもわからない謝罪を繰り返す八重樫をよそに、新庄はこれが間違いなく八重樫による連続殺人なのだとうすぼんやりとした確信を得ていた。
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