第11話 一将功成りて万骨枯る

「ねぇメシヤ、私達の物語って、テンポが速すぎないかしら?」

 マリアがハイパーループの客室内で、向かいのメシヤに声をかける。


「人生を物語に置き換えるとは、ノベリストだね、マリア」

はぐらかすメシヤ。


「今回の作品は、活動スペースが限られているそうですわ」

レマも応じる。


「巻いてくれ、との天の声だな」

イエスも同調する。


「それでメシヤも一気に16歳になったんだネ!」

エリが一読者のようなコメントをする。




「冗談はさておき、そろそろホワイトハウスが見えてくるよ」

メシヤが窓の外に目をやる。


「マッハ2.0だから、ワシントンD.C.までの24000kmを約10時間で到達出来るわけね」

マリアが得意の暗算を披露する。


「ロックフォーゲル大統領はお見えかな?」

イエスは若きアメリカ大統領と対面出来るのを楽しみにしている。



「着きましたわ!」「着いタ!」

裁紅谷姉妹は、ハイパーループの速さに驚嘆し、好奇心が抑えられないようであった。


ホワイトハウス前に降り立つと、うってかわって裁紅谷姉妹が周囲を警戒しているのがうかがえた。

「エリもレマもそんなに緊張しなくていいよ。僕らはボウスハイトくんに呼ばれて直々に来てるんだからさ」

ボウスハイトとは、ロックフォーゲル大統領のファーストネームである。


「待っていたよ、メシヤくん」

後方から、低く伸びやかな声が聞こえた。ボウスハイトである。


五大所山ごだいしょやまでお会いした以来ですね、フォーティーシックス」

メシヤが親しげに応える。


「ああ、あの時は君に痛い目に遭わされたよ」

ボウスハイトは左頬をおさえた。


「え、え? なに? 面識あるの?」

マリアが慌てふためいている。


「そう言えばあの時マリアさまはいらっしゃいませんでしたね」

「二人は拳を交えた仲なんだヨ、マリア!」

裁紅谷姉妹は、聖戦の目撃者であった。


「ロックフォーゲル大統領、いまアメリカ全土は大変なことになっていますね」

イエスが丁重な面持ちで語りかける。


「うむ、アメリカはもちろんのこと、プロミネンス200の猛威は世界を席巻している。君たちはハイパーループのテスト走行という重大な任務を帯びているが、これはタイミングが悪かったわけではない」


「メシヤさまの持つ三種の神器の力を使おうというわけですね?」

レマが口を挟んだ。


「・・・そうだ」

ボウスハイトはなにやら一瞬考える素振りを見せたあと、うなずいた


レマがエリに目配せをする。

(メシヤさまがプロミネンスウイルスを収束させる動く抗体とは、口が裂けても言えないですわ・・・)


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