第3話 藤波羅探題

「ねえ、ボク」

 初老の男が、まだ幼い未就学児に声を掛ける

「だあれ、おじちゃん?」


「カラス、と呼んでもらって構わないよ」

「へぇ、カラスさんって言うんだあ」


「上手な絵だね」

 カラスと名乗った男は、幼児が砂場に描いた絵を褒める。

「うん、ぼくね、描くのが好きなんだ!」


「どうれ、おじちゃんも描いてあげよう」

そうすると、男はたいして速く動いているわけではないのに、みるみる美麗な城の絵を描きあげていった」

「うわあ! カラスさん、すごい!」

 幼児は純粋に驚いた。


「どうやったら、そんなに上手く描けるの?」

「ああ、君には特別に教えてしんぜよう」

 こどもは、目を輝かせて教えを待っている。


「君にアドバイスだ。目に映るもの、その時感じたこと、気づいたこと、なんでもメモするんだ」

「うん、うん」

「絵の上達法について。丸、直線、美しさ、はかなさ、気高さ、弱さ、いじらしさ。これらすべて含んだモチーフ。それは花だ。花を描くことだよ、メシヤくん」


聞き入るメシヤ。そして唐突に自分の名前を呼ばれたことに驚く。

「あなたは?」

男はにっこり微笑むと、一冊の分厚い本を置いて消えた。

「現代用語の土台知識・・・」

メシヤは手にとってまじまじと見つめる。

「うん? 2050年版!?」



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