ラブレター


友人に頼まれてラブレターの代筆をする。本が好きで、文章も上手だからと。買い被りだった。千の物語を知ってはいても恋は知らない。それでも悪い気はせず、母にそのことを心持ち自慢げに話すと、わたしも同じことをよくしたと懐かしげに、昔より肉の落ちた白い首を掌で包む。母の癖。顔も知らないあのおぞましい父に、母自身のラブレターを書いたことはあったのだろうか。わたしが父の女であるような戦慄が、不意にからだのなかを白く貫き、やわらかい吐き気がきた。


          217 characters , 15:51

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る